ロウソクの科学
著者:マイケル・ファラデー (Michael Faraday)
翻訳: 山形浩生<hiyori13@alum.mit.edu>
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テキスト(sjis)版はhttps://genpaku.org/candle01/candlej.txt© 1999 山形浩生
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目次
第 1 章 ロウソクの炎はどこからきているんだろうか。
第 2 章 炎の輝き――燃焼に必要な空気――水の生成。
第 3 章 燃焼の産物――水の性質――化合物――水素
第 4 章 ロウソクの中の水素:燃えて水に――水の残りの部分:酸素
第 5 章 空中の酸素――大気の性質――二酸化炭素
第 6 章 呼吸はなぜ燃えるロウソクと似ているか。
あとがき
訳者あとがき
第 1 章 ロウソク:炎はどこからきているんだろうか。
ここでの出し物を見にくることで、みなさんはわれわれに大いなる栄誉を与えてくれたわけですから、そのお返しに、このレクチャーではこれからロウソクの化学的ななりたちを示していきたいと思います。自然について考え方を勉強するとき、ロウソクという物理現象に注目するのは、いちばんすぐれていて、いちばん開かれた道なんですね。ロウソクという現象を見れば、この宇宙を仕切っている法則はすべて顔を出すし、関わってくるんです。だから、目新しいテーマを選ばずにロウソクなんかを選んだけれど、それでみんなをがっかりさせるようなことはないはず。これよりいいテーマはないし、これと肩を並べるくらいのものでも少ないでしょう。
訳注:この頃は、「Science(科学)」ということばはまだ広まっていなくて、Natural philosophyという言い方をしたんだそうな。ここでは「自然についての考え方」としておいた。
さて、先に進める前に、もう一言言わせてください。われわれのテーマはとても壮大だし、それを真摯に、まじめに、科学的に取り上げようというわれわれの意図も壮大なものではあるんですが、でもわたし、われわれの中の年長者からは距離をおくつもりです。子供のみなさんには、自分も子供の一人として話すという特権をいただきましょう。これは前にもやったことだし、お気に召したらまた何度でもやります。そしてここに立って、自分がしゃべることばが世間一般に向けてのものだとわかってはいますが、それでもきみたちに話すときには、いちばん身近な人間に話すときみたいな、親しみをこめた話し方をするようにします。
というわけで、少年少女のみなさん、まずはロウソクというのがなにでできているのかを説明しておきましょう。なかにはずいぶんと珍しいものもあって、たとえばアイルランドの沼地でとれる、キャンドルウッドっていう変な物質があります。これは堅くて強い木なんだけれど、すごく明るく燃えるんですな。ロウソクみたいに燃えるので、これがとれるところではマッチの軸を作ったり、たいまつをつくったりして、すごくいい灯りになってます。そしてこの木のなかには、ロウソクの一般的な性質が、最高に見事なかたちで詰まっていると言っていいでしょう。燃料の供給のされかたとか、その燃料を化学反応の起こる場所まで持ってくるやり方とか、その反応場所――熱と光――への空気の供給とか、そのすべてがこの種の小さな木ぎれにこめられて、まさに天然のロウソクになっているんです。
でも、ここでは店で売っているようなロウソクの話をしましょう。ここにあるのは、ディップ式っていうロウソクです。まず、それなりの長さの木綿糸を切って、それにループをつくって引っかけて、とけた動物の脂肪にひたして(ディップして)、それをとりだしてさまし、またつけなおす、というのを繰り返すうちに、木綿糸のまわりに脂肪がだんだんついてきます。炭坑の炭坑夫たちは、すごく小さなディップを使っていました。昔は、坑夫は自分でロウソクを用意しなきゃならなかったんです。そして小さなロウソクのほうが、大きなロウソクにくらべて炭坑の坑内ガスに燃え移りにくい、と思われていたんですね。これと、それにあとは値段の問題もあって、坑夫はこの手のロウソクを持っていた――一ポンドで20、30、40、60本くらいも買えるようなやつ。炭坑で使う明かりは、その後はスチールランプ(steel-mill)になって、それがさらにはデーヴィー安全灯とか、いろいろな安全ランプに置き換えられていきましたが。 ここにもってきたのが、ペイズリー大佐がロイヤル・ジョージ号原注1からとってきたといわれるロウソクです。もう何年も前に海に沈んで、塩水の活動にさらされていました。ロウソクがどんなによく保つか、これをみるとよくわかりますね。あちこちひびが入って、欠けたりもしてますが、火をつけるとこうして安定して燃え続けるし、脂肪分は火をつければすぐに、自然な状態に戻ります。
ラムベスのフィールズさんが、ロウソクやその材料の見事なイラストをたくさん提供してくれたので、これからそれを使っていきましょう。まずは牛脂です。これは牛の脂肪だ――ロシアの脂肪だと思うけれど、それをゲイ・リュサックや、かれの知識を受け継いだだれかが、あのステアリンという美しい物質に変換しました。ご承知のように、いまのロウソクは、昔の脂肪式のロウソクみたいなベトベトしたものではなくて、もっときれいなものになっているから、そこからたれるしずくもひっかけば、すぐに粉々になって簡単に落ちるし、それがついたところもほとんどよごれないでしょう。
ゲイ・リュサックが使ったのは、こういうプロセスです原註 2。まず、油や動物の脂肪を石灰で煮て、せっけんにします。それからそのせっけんを、硫酸で分解すると、石灰分がぬけて、脂肪がステアリン酸に組み替えられて残ると同時に、グリセリンもたくさんできます。グリセリン――これはまぎれもない糖、あるいは糖に似た物質です――がこの化学変化の途中で、脂肪からでてくるんですね。で、圧力をかけて残った油をぬきます。ここに、ホットケーキみたいなものがたくさんペチャンコになってますねえ。圧力をどんどん高くすると、不純物が油っぽい部分といっしょに出ていってしまうのがみごとにわかります。そこで残った物質をとかして、それを型に入れて、ここにあるようなロウソクにするわけです。わたしがいま持っているのは、ステアリン製のロウソクで、脂肪からいま説明したようなやり方で作った、ステアリンでできています。
さてこちらはクジラロウソク。これはマッコウクジラの鯨油を生成した油でつくってあります。こっちは黄色い蜜ロウと、精製した蜜ロウ。これもロウソクの材料になります。さらにこっちには、あのパラフィンという変な物質があります。アイルランドの沼地でとれるパラフィンから、パラフィンロウソクなんてのも作られてます。こっちには、日本からもってきた物質があります。なんせ最近われわれは、あの僻地の国の入り口を、無理矢理こじあけてやりましたからな――親切な友だちが送ってくれた、一種のワックスですねえ。そしてこれは、ロウソク生産の新しい材料になるものです。
で、ロウソクはどうやってつくるのか? ディップ式はもう話したから、こんどは型を使った作り方の話をしましょう。ここにあるロウソクが、型どりできるような材料でできてるとしましょう。「型どりって、ロウソクはとけるんだし、とけるんなら型どりできるに決まってるじゃないの!」と思うでしょう。残念でした。製造業が発達して、ほしい結果を得るためのいちばんいい方法を考えるなかで、これまで予想もしなかったことが飛び出してくるってのは、実にすばらしいことです。ロウソクは、いつも型どりしてつくれるとは限らないんです。ワックス製のロウソクは、型に入れてつくることはできないんです。特別なやりかたでつくるんで、これはものの数分で説明できますが;いやでもあんまりそれに時間は割けないな。ワックスというのは、すごくよく燃えるし、ロウソクの中ですぐにとけるので、型に入れられないんです。 でも、まずは型どりできる材料の話をしましょう。ここに枠があって、その中に型がたくさん固定されています。まずは、その型に芯を通します。ここにあるような芯です――編んであって、だからロウソクが燃えていっても芯を切らないですむようになってます原注 3――これはまっすぐ立ってるように、針金でささえてあります。この芯を、まず型の底に通して、それをペグでとめます――小さなペグが木綿糸をしっかりおさえて、あとはその糸口から液体がもれないようにするわけです。てっぺんのところには小さな棒が横にわたしてあって、それが木綿糸をピンと張らせて、型の中に固定しておくようになってます。それから脂肪をとかして、型に流し込みます。しばらくして型が冷えると、余った脂肪を角のところから流しだして、ロウソクをまとめて底をきれいにして、芯のよけいな部分を切ります。これで、型のなかにはロウソクだけが残るので、ひっくり返すと、ゴロゴロッと出てくるわけですね。ロウソクはコーン型になっています。てっぺんが細くて、根本が太くなっています。こういう形のせいもあるし、あとは冷えるときにちょっと縮むのもあって、だからちょっとふってやると、ポコッとはずれます。ステアリンやパラフィンのロウソクも同じようにつくります。
ワックスのロウソクのつくられかたは、とってもおもしろいです。木綿糸がたくさん枠にぶらさげられて、その先端に金属のタグがついて、ワックスが木綿にかからないようにしてあります。で、これをワックスをとかすヒーターのところへ持っていきます。この枠はぐるぐるまわるようになっていて、まわっているところへ、人がとけたワックスをすくって、一本ずつ順番にかけていくわけです。で、一回りして、それが十分に冷えたら、こんどはまた最初のにもどって、二巡目をいきます。これを繰り返して、必要な厚みになるまで続けるんですね。これで芯の全部が、まあ十分太ったというか、エサをもらったというか、とにかくその厚みまできたら、それを枠からはずして、別のところにもっていきます。フィールズさんのご厚意で、そういうロウソクをいくつかここに用意してあります。これなんか、まだできかけのヤツですねぇ。これをこんどは、なめらかな石の板にゴロゴロころがして丸くします。それでコーン型のてっぺん部分を、そういう形をつくってある型におしこむことでつくるんです。それから底の部分を切って、余計な芯を切ります。これを実にきれいにやるので、こういうやりかたで、重さが正確に4ポンドとか6ポンドとか、あるいは好きな重さのロウソクをつくれちゃうんですね。
でも、ただの作り方にこんなに時間をかけちゃいけませんね。もっと話を進めましょう。まだ、豪華なロウソクについては話をしてませんね(といっても、ロウソクに豪華もクソもないんですが)。これなんか、とてもきれいに色がついてますな。すみれ色、赤とか、最近発明された化学的な色素がなんでもロウソクに使われています。さらには、いろんな形が使われているのもわかるでしょう。こっちにあるのは、溝がたくさんついていて、神殿の柱みたいで実にきれいな形です。さらにこれはピアサルさんが送ってくれたロウソクですが、いろいろデザインで装飾してあって、だから火をつけるとそれが上空で輝く太陽になって、下の方には花束なんかがある、という具合です。しかしながら、きれいで美しいものが、必ずしも役に立つとは限らないんです。こういう溝のついたロウソクは、きれいではありますが、ロウソクとしてはダメなロウソクです。ダメなのは、この外形のせいです。でも、こういうあちこちの友人が送ってくれた種類のロウソクを見せるのは、この方面でどんなことが行われていて、なにができるかをお見せするためです。でもいま言ったように、こういう洗練のためには、この実用性を多少犠牲にしなきゃならないんです。
さて、ロウソクの火の話をしましょう。一、二本、火をつけてみましょう。そして本来の機能を果たすように動かしてみましょう。こうしてみると、ロウソクはランプとはぜんぜんちがっているのがわかるでしょう。ランプだと、油が少しあって、それを器に入れて、そこに人工なかたちで用意した、コケとか綿とかをいれて、その芯のてっぺんに火をつけます。炎が綿をずっとおりてきて、油のところまでくると、そこで消えますが、油より上のところでは燃え続けます。さて、ここでみなさんまちがいなく不思議に思うでしょう。どうして油は、それだけでは燃えないのに、その綿のてっぺんまできて燃えるんだろうか? これについてはすぐに見ていきます。でも、ロウソクが燃えるのには、これようりもずっとすばらしい点があるんです。ここにあるロウソクは、固体で、別に容器におさまったりしてませんね。それなのに、この固体の物質が、どうやって炎のあるところまでのぼっていくのか? 固体が、液体でもないのに、そこまでいけるのか? あるいは液体になったとしたら、どうしてバラバラにならずにいるのか? ロウソクのすごいのは、こういうところです。
さてここはずいぶん風がくるので、実験の一部ではそれが役にたつけれど、一部ではちょっと風がいたずらすることになります。だからちょっと物事を一貫させて、事態を単純にするために、炎をじっとさせておくことにしましょう。ものごとを観察しようってのに、それとは関係ない面倒がいろいろあってはじゃまですからね。これは、市場にいる行商人や屋台売りが、野菜やジャガイモや魚を売るときに、土曜の晩にロウソクをカバーするためのとても頭のいい発明です。わたしもよく感心してこれを眺めるんですよ。ロウソクのまわりにランプのガラスをつけて、それを一種の張り出しにのせて、必要に応じて上下できるようになってるんですな。同じようにランプ用のガラスを使って、炎はじっとさせておけるんです。これならながめて、じっくり観察することができます。家に帰ったらぜひやってみてください。
で、ロウソクをしばらく燃やして、真っ先に気がつくのは、とってもきれいなくぼみができていることです。空気がロウソクに近づくと、ロウソクの熱がつくる気流のせいで、その空気は上に動きます。これで近づいてくる空気がワックスなり脂肪なり燃料なりの側面を冷やして、はしっこのほうは、中の部分よりずっと冷たくなることになるんですね。炎は、消えるところまでずっと芯の下に向かってやってくるので、中の部分はとけるけれど、外の部分はとけないんです。もし気流を一方向だけにすると、くぼみがゆがんでしまって、液体もどんどん流れ出します。世界を一つにしている重力の力が、この液体を水平に保つから、もしくぼみが水平でなければ、液体は当然ドボドボ流れ出すってことです。つまりですね、このくぼみは、みごとに一様な空気の流れが、あらゆる方向からやってきて形成されて、そしてそれがロウソクの外側を冷やしておくというわけですな。
このくぼみをつくれない燃料は、どれもロウソクには使えません。ただしアイルランドの沼地の木は別で、これは材料そのものがスポンジみたいになっていて、独自の燃料を持っているわけです。これで、さっき見せたような、美しいけれど不整形なロウソクを燃やすとろくでもないことになるわけが、わかるでしょう。不整形でかたちがゆがんでいるので、ロウソクのすばらしい美しさである、このきれいなくぼみの縁ができないからです。これで、あるものの美しさというのは、そのプロセスの完成度――つまりはその効用――のほうに大きく依存しているんだ、ということがわかってもらえるといいんですがねえ。われわれにとっていちばん役に立つのは、見た目にいちばんきれいなものではなくて、いちばんうまく機能するものなんですな。不整形なロウソクは、うまく燃えないロウソクです。まわりには、きたならしくドボドボとロウがあふれます。それは空気の流れが一様ではなくて、だからできるくぼみの形もまずくなるせいなんです。
この上昇気流の働きについては、きれいな例が見られますね(こうした例は見ればわかると思いますが)。ロウソクの側面に、ロウがたれてすじがついたところでは、ロウがほかのところより厚くなっています。ロウソクが燃え続けると、そのすじはそのまま残って、ロウソクの横っぱらに小さな柱みたいにして立ったままになります。ロウや燃料のほかの部分から上に出ると、空気がそのまわりをもっとたくさん通れるので、強く冷やされて、すぐ近くの(炎の)熱にも耐えやすくなるからです。これはロウソクの最大のまちがいや欠点です。でもほかのことでも言える話ですが、そういう欠点に、われわれに対する教訓が含まれているんです。そういうまちがいや欠点が生じなければ、それに気がつくこともなかったでしょう。わたしたちがここに来たのは、自然哲学者(科学者)になるためです。だから、なにか結果が起こったら必ず、特にそれが新しい結果なときには、「原因はなんだろう? どうしてこうなるんだろう?」と考えるべきなんです。いずれその答えが見つかるでしょう。
さらに、このロウソクのおかげで答えのわかる質問がもう一つあります。それは、なぜ液体がこのくぼみから出て、芯をのぼって、燃焼の起こっている場所にくるのか、ということです。ロウソクは、蜜ロウ、ステアリン、鯨油なんかでできていて、その芯で火が燃えています。でもその火はワックスなんかのほうにすぐに下りていって、それを溶かしてしまったりはしません。自分の場所にきちんとおさまっていますね。炎は、その下の液体からは遮断されているし、くぼみのふちに飛び移ったりもしません。ロウソクのある部分が、ほかの部分をその行動のとことんまで活用するよう調整されているわけで、これほどに見事な例はほかに思いつきません。こんな可燃物が、だんだんと燃えていって、絶対に炎に勝手なまねをさせないというのは、とても美しい光景です。これは、炎というのが実に強力なものだというのを知ればなおさらでしょう。炎はワックスをひとたびつかまえてしまえば、これをすぐに破壊してしまえますし、近くにきただけでも、ワックスはもとの形を失ってしまいます。
でもそれなら、炎はどうやって燃料を確保するんでしょうか。これについては、すばらしい説明があります。「毛管引力原注4」です。毛管引力というのは、英語だと「髪の毛の魅力(capilary attraction)」になるので、なんじゃそりゃ、と思う人もいるでしょう。まあ名前は気にしないでください。ずっと昔についた名前で、実際にどういう力なのかがよくわからなかった頃の名前なんですから。燃料が、燃焼の起こっているところまで運ばれて、そこに置かれるのは、この毛細管現象のおかげです。その置き方もいい加減ではなくて、その周辺で起きている燃焼活動の、どまんなかに運ばれるんです。 さて、毛細管引力の例をいくつかあげてみましょう。毛細管引力というのは、おたがいにとけあわない物体同士でもくっつけてしまう力です。手を洗うときには、手を十分にぬらします。ちょっとせっけんをつけて、水がもっとよくつくようにします。すると手はぬれたままになります。これから話すのは、こういう力のことです。そうそう、もう一ついえば、もし手が汚れていなければ(ふつうは生活の中で使うからいつも汚れているんですが)、温水をちょっと用意してそのなかに指をつっこむと、水が指にそって多少あがってきますね。いちいちそんなことを気にして、手をとめて観察したりしないかもしれませんが。
ここに穴の多い物質があります――塩のかたまりでつくった柱です――こいつの底のところの皿に、液体を入れてみましょう。これは見た目とはちがって、ただの水じゃない。飽和食塩水で、これ以上は塩がとけない液体です。だからこれからお目にかける現象は、液体で何かがとけたせいではないわけです。このお皿をロウソクだと思って、塩が芯で、この溶液がとけたロウだと思ってください。(液体は着色しておきました。そのほうが、動きがよくわかるでしょう)。ごらんのように、こうして液体をそそぐと、それがだんだんと塩の中を、上へ上へとゆっくりあがっていきます。そしてこの柱がひっくり返らなければ、てっぺんまで液体があがってきます。もしこの黒い液体が燃えるものだったら、この塩のてっぺんに芯をつけると、その芯の塩の付け根のところで燃えます。
こういう現象が起きているのを見るのは、実におもしろいもんです。そしてそれをとりまく状況というのがどんなに風変わりかを見るのも。手を洗うでしょう。タオルで水気をとりますね。そうやってぬれることで、というか、そのときタオルが水でぬれるようにする力のおかげで、ロウソクの芯もロウでぬれるわけです。手を洗ってタオルでふいて、そのタオルを洗面器にかけておくと、やがてそれが水を全部洗面器から吸いだして、床に流してしまった、という不注意な少年少女たちがいます(いや、不注意でない人たちもやることですが)。タオルがちょうど、サイホンの機能を果たすように、洗面器のふちにかかってしまったからですな原注5。
物質がお互いにどういうふうに作用するかをもっとよく理解してもらうために、金網でつくった容器に水をいっぱい入れてみました。これはその働きからして、ある意味では綿に似ているし、ある意味では布に似ているでしょう。実は芯を一種の金網でつくることもあります。ごらんのとおり、この容器は穴だらけです。水を上からちょっと注ぐと、下から出てきます。だからこの容器がどんな状態で、中になにが入っていて、なぜそれがそこにとどまっているのか、ときいたら、たぶんしばらくまごつくでしょう。この容器は水でいっぱいです。でも、空っぽであるかのように、水はこいつを通り抜けます。証明するには、こうやって空けてみればいいだけですね。理由はこういうことです。針金は、一回ぬれると、ぬれたままです。金網の目が小さすぎて、液体が両方から強く引きつけられます。だから穴だらけなのに水は容器の中に残るわけです。同じように、とけたロウの分子は綿をのぼっててっぺんにたどりつきます。ほかの分子は、分子同士の引力でそれにしたがいます。そして炎にたどりつくと、順番に燃えていくわけです。
同じ原理を使ったものをもう一つ。これは籐製の杖の一部です。道ばたで男の子たちが、大人ぶってみようと焦って、杖の端っこに火をつけて、葉巻のふりをして吸ってみたりしていますねえ。あの子たちがそういうことをできるのは、杖が一方向に水を通すのと、そしてそれが毛細管になっているからです。この杖を、カンフィン(性質はパラフィンととてもよく似ています)の皿にたてると、あの黒い液体が塩の柱をのぼっていったのとまったく同じようにして、この液体も杖をのぼっていきます。側面には穴がないので、液体は横からは逃げられずに、ずっと端から端までいくしかありません。さっそく液体が、杖のてっぺんまできました。これで火をつけると、こうしてロウソクがわりに使えます。液体は、この杖のかけらの毛細管引力であがっていったわけで、ロウソクの芯の綿とまったく同じです。
さて、ロウソクが芯にそってすぐに下まで燃えてしまわないのは、ただ一つ、とけたロウが炎を消してしまうからです。ごぞんじのように、ロウソクをひっくりかえして、燃料が芯にそってたれるようにすると、火は消えちゃいます。その理由は、炎が燃料を熱して燃えるようにするだけの時間がなかったからです。ロウソクが上を向いていれば、燃料は芯から少しずつ運ばれて、熱による影響をフルに受けることになるわけです。
ロウソクについては、学ぶべき点がもう一つあります。これなくしては、ロウソクの科学について十分に理解できません。それは、燃料が蒸気の状態になっているということです。これを納得してもらえるように、とってもすてきな、だけれど実にどこでもできる実験をしてみましょう。うまいことロウソクをふき消すと、そこから蒸気があがっているのが見えます。ロウソクを吹き消したときのにおいは、みんないつもかいでますね――はい、実にいやなにおいです。でもうまく吹き消すと、ロウという固体が変換した蒸気がとてもはっきり見えます。このロウソクを一本、そういうふうに吹き消してみましょう。息を吹き続けてまわりの空気を乱さないようにするのがコツです。さて、ここで芯から5センチかそこらのところに火をつけた棒をもってくると、空中を火が走って、ロウソクまで届くのが見えるでしょう。これはちょっとどうしても手早くやらなくてはなりません。蒸気が冷える時間をあげたら、それは液体か固体になってしまうか、あるいは燃える物質の流れが中断してしまいますから。
こんどは、炎の形の話をしましょう。ロウソクをつくる物質が、芯のてっぺんでどういう状態になっているのか、というのも、われわれがとっても知りたいことなのです――燃焼や炎しか生み出せない、すばらしい美しさと輝きの生まれるところですね。金や銀はピカピカしてきれいだし、ルビーやダイヤモンドなどの宝石の輝きは、それにも増して輝いてます。でもそのどれも、炎の輝きと美しさと張り合えるもんじゃあありません。炎みたいに輝けるダイヤがありますか? 夜にダイヤが輝くのは、それに光を投げかける炎あってのことです。炎は闇の中でも輝きますが、ダイヤの放つ光というのは、炎がそれに光を投げかけるまでは存在せず、光をもらってやっと輝くようになるんですね。ロウソクは自分だけで、自分のために、というか材料を集めてきてくれた人のために輝くんです。
さて、ガラスの覆いの下で見るように、炎の形をちょっと見てやりましょう。安定していて均等ですね。そしてだいたいの形は、この図にかかれたようなものです。ただ空気が乱れると炎の形も乱れます。さらにはロウソクの大きさによっても変わります。明るい長方形になっていますね――てっぺんのほうが、下の部分よりも明るくなっています――芯が真ん中にあって、底のほうにはもっと暗い部分があります。火のつきかたが上ほど完全ではない部分です。
ここにある図面は、何年も前にフッカーが観察したときにつくったものです。これはランプの炎の図ですけれど、でもロウソクの炎にもあてはまります。ロウソクのロウのくぼみ部分は、容器というか、器の部分です。とけた鯨油は油で、芯はどっちも同じですね。そこにフッカーは、小さな火をともして、そして真実を描き出したのです――その炎のまわりには、ある程度の物質がたちのぼっているんです。これは目には見えないし、この講義に前にきたりしてこの対象になじみがなければ、気がつかないものです。かれは、取り巻いている空気の部分を描いたんですね。そしてこの空気の部分は、炎にとってかかせないもので、必ず炎には存在しているものなんです。気流ができて、それが炎を外側に引き出します――みんなの見ている炎は、実はその気流のおかげで引き出されて、さらにはかなりの高さまで引き上げられているわけです――まさにフッカーが、この図で気流がのびている様子を描いていますが、この通りです。この気流を見るには、ロウソクに火をつけて日向において、その影を紙に映してみるといいでしょう。ほかのものに影をつくれるほど明るいものが、白い紙にそれ自身影を落とせるというのは、実にすごいことです。これで、炎の一部ではないものが炎のまわりでうずをまいて、炎から上昇しつつ、炎を上に引っ張り上げているのが実際に目に見えるようになるわけです。
ここでは、太陽のかわりに、電灯にボルタ電池をつけてまねをしてみましょう。ごらんのとおり、これがわたしたちの太陽で、すごく明るいですね。そしてこれとスクリーンとの間にロウソクを置くと、炎の影ができます。ロウソク自身の影と、芯の影がわかりますね。そしてここに暗い部分があります。さっきの図の通りです。そして炎のもっとはっきりした部分もあります。でもおもしろいことに、影で見ると炎でいちばん暗くなっている部分というのは、実は炎のいちばん明るい部分なんですね。そしてここんとこに、上に立ちのぼっているのが、フッカーが示したのと同じ、熱い空気の上昇気流で、これが炎を引き上げて、空気を供給して、とけた燃料のくぼみ側面を冷やしているわけです。
ここでもうちょっと、炎が気流にそって上がりも下がりもするんだということをお見せしましょうか。ここに炎があります。ロウソクの炎じゃないですが、もうそろそろ、物事を一般化して、いろんなもの同士を比較できるようになっているでしょう。なにをするかというと、炎を上に引っ張っている上昇気流を、下降気流に変えてやろうというわけです。これは、ここにあります仕掛けを使えば簡単です。使う炎は、いまも言ったように、ロウソクの炎じゃありません。アルコールの炎なので、あまり煙が出ません。さらに、別の物質で炎に色をつけます原注6。アルコールだけだと、炎がほとんど見えないので、その向きがぜんぜんわからないからです。さて、このお酒の成分アルコールに火をつけると、こうして炎が出ます。見ての通り、空中においておくと、それは自然に上に向かっています。なぜふつうの状況では炎が上に向かうのか、いまならみんな、簡単にわかりますよね――燃焼のおかげでできた空気の流れのせいですね。でも、炎を下に吹いてやれば、ごらんのとおり、こうして炎はこのちっちゃな煙突に入っていきます――気流の向きが変わったからです。この講義の最終回までに、炎は上昇して煙は下に向かうようなランプを見せてあげましょう。あるいは炎が下に向かって煙は上昇するようなのもできます。つまり、われわれはこういうふうにして、炎をいろんな向きに変えてやれるだけの力を持っているんです。
さて、示しておくべきポイントが、ほかにもいくつかあります。ここで見た炎は、まわりのいろんな方向から吹きつけてくる空気の流れしだいで、形がいくらでも変わります。でも、やりたければ炎が固定しているようにさせることもできるし、それを写真にも撮れます――いや、写真に撮るしかないんです――われわれの目にそれが固定されて、炎についてのすべてがわかるようにするには。
でも、わたしが言いたいのはそれだけじゃない。もし炎を十分に大きくすれば、それはあの均質で一定の形には保たれなくて、とてもすばらしい活力をもって燃え上がります。ここでは別の燃料を使いますが、でもこれはロウソクのワックスやロウをまさしくきちんと代替できるものです。で、こちらには大きな綿の玉。これを芯に使いましょう。そしてこれをアルコールにひたして火をつけます。ふつうのロウソクとどこがちがっているでしょうか? 一見して大きくちがっている点がありますね。この炎は活発で力を持っていて、それはロウソクでできる光とはまったくちがった美しさと活力を持っています。こうやって、小さな炎の舌が舞い上がるのが見えるでしょう。下のほうでは上に向かって、炎のかたまりがだいたいできていますけれど、それに加えて、それが小さな舌みたいに分かれてまき起こっています。これはロウソクでは見られません。さて、なぜこうなるんでしょう。これは説明しておかなくてはなりませんね。これをきちんと理解すれば、この先わたしが申し上げることが、もっとよくわかるようになるからです。
たぶんここにいる何人かは、わたしがこれから示す実験を自分でやったことがあるでしょう。ここにいる人で、スナップドラゴンをやったことがある人は? 炎の科学をしめし、その性質の一部を明らかにするのに、スナップドラゴンよりもいい例は思いつきませんね。まず、お皿を用意します。そして、スナップドラゴンをちゃんとやるなら、お皿は暖めて置かなくてはいけません。さらには干しぶどうとブランデーを暖めておきます。でもこれは今日は用意していませんが。ブランデーをお皿に入れます。これはロウソクのくぼみと燃料ですね。そしてそのお皿に干しぶどうを入れると、これがまさに芯の役目を果たしているではないですか。で、干しぶどうを投げ込んで、お酒に火をつけると、さっき言った美しい炎の舌が見られます。
この舌をつくるのは、お皿のふちから入ってくる空気です。なぜ舌になるかって? それは、空気の流れと、炎の動きが均質でないのとで、空気が均質な気流一本で入ってこないからです。空気の入ってきかたが不規則すぎて、本当なら一本になるはずのものが、いろんな形にわかれるんですな。そしてこの小さな舌のそれぞれが、独立した存在となるんです。まさに、独立したロウソクがたくさんあるんだ、と言ってもいいかもしれない。
こういう舌が同時に見えるからと言って、炎がこういう形をいつもしているんだと思ってはいけません。炎はこういう形に見えても、それぞれの時点ではちがうんです。炎の本体は、さっきの脱脂綿の玉からあがっていた炎のような、目に見えるような形であることはありません。それは無数のちがった形からできていて、それが次から次へと高速に連続しているので、目はそれを同時に認識するしかできないんですね。それが同時に起きているわけではない。ただ、それぞれの形が高速に連続しているから、それが同時に存在しているように見えるだけなんです。
スナップドラゴン遊びまでしかこられなくて残念です。でもなにがあっても、あなたたちを時間外まで引き留めるようなことはしてはいけませんね。これからは、こんな例証ばかりに時間を使わずに、ものごとの法則にもっと専念することとしましょう。これはわたしのこれからの課題ですな。
註:
- 原注 1:
- ロイヤル・ジョージ号は、1782 年の 8 月 29 日にスピットヘッドで沈没。ペイズリー大佐は、1839 年 8 月に、残骸を火薬で爆破し除去する作業の指揮をとった。したがってファラデー先生がここで示したロウソクは、塩水の活動に 57 年以上もさらされていたことになる。
- 原注 2:
- 脂または脂肪は、脂肪酸とグリセリンの化学結合でできている。石灰はパルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸と結合して、グリセリンを分離する。それを洗い流してから、水にとけない石灰石鹸は、熱い希釈硫酸で分解される。すると、脂肪酸がとけだして、分離器に入れて分離するとそれが油になって表面に浮いてくる。そしてそれをもう一度洗って、薄い皿状にして固める。冷えてからそれを、ヤシ製のマットを何層も重ねた間に入れて、強力な水圧をかける。するとやわらかいオレイン酸がしぼりだされ、かたいパルミチン酸とステアリン酸だけが残る。これをさらに、高温で圧力をかけて、暖かい希釈硫酸で洗って精製したものが、ロウソクに使えるようになる。この酸はもとの脂肪よりもずっと硬く、白くて、さらにもっときれいで燃えやすい。
- 原注 3:
- 芯が燃えた灰が落ちるように、ホウ砂や燐酸を加えておくこともある。
- 原注 4:
- 毛管引力、または毛管斥力というのは、毛細管の中の液体の上昇や下降を起こす原因となる力。温度計の管の部分をとって、その両側を空けて、その片方を水にいれると、水はすぐに管をのぼって、外の水の高さよりずっと高くなる。ところがこれを水銀でやると、引力ではなく斥力が出て、水銀の高さは外の水銀より低くなる。
- 原注 5:
- 故サセックス公爵は、この原理を使ってエビが洗えるかもしれないと思いついた最初の人物だった。エビのしっぽの羽根状の部分をとって、それを水の入ったコップに入れ、頭の部分は外側にぶらさがるようにしておけば、水は毛管引力でしっぽから吸い上げられて、頭から流れ出し続けて、いずれコップの中の水面が低くなって、しっぽがそこにつからなくなるまで続く、というわけだ。
- 原注 6:
- アルコールには塩化銅が溶かしてあった。このおかげで、美しい緑の炎ができる。
第 2 章 炎の輝き――燃焼に必要な空気――水の生成
こないだは、ロウソクの液体になった部分の一般的な性質や仕組みについて考え、さらにその液体が燃える場所までくる様子にばかり気をとられていました。ロウソクが均質で安定した空気の中できれいに燃えているときは、ごらんのように、この図にあるような形をしています。性質はとてもおもしろい炎ですが、形は均質ですね。
さてこんどは、炎のここの場所で、それぞれなにが起きているかを見極めるための手段について考えてみましょう。さらには、いろんな場所でなぜそういうことが起こるのか。起こる結果としてどうなるのか。そして最終的に、ロウソク全体はどこへいってしまうのか。というのも、よーくご存じのように、ロウソクを目の前にもってきて火をつけたら、きちんと燃やせばそれは消えてしまうからで、あとにはロウソクの泥一つさえ残らないでしょう。これはなかなか不思議なことなのです。
というわけで、このロウソクを注意深く調べるために、いろいろ道具を用意しました。使い方は、わたしが先に進むにつれてわかってきます。ここにロウソクがあります。このガラス管のはしっこを、炎の真ん中につっこみます――老フッカーの図で、かなり暗く書かれているところですね。あまり息をかけたりしないで、注意深くロウソクを観察すれば、いつでも見える部分です。この暗い部分からまず見ていきましょう。
さあこの曲がったガラス管を持って、その炎の暗いところにかたっぽをつっこんでやりましょう。するとすぐに、炎から何か出てきているのがわかります。ガラス管の反対側のところですね。で、そこにフラスコをおいて、しばらく放っておくと、炎の中程のところからくるものが、だんだん引き出されて、ガラス管をとおってフラスコに入り、そこで開けた場所とはまったくちがったふるまいをしているのがわかります。ガラス管の端から出てくるだけでなく、フラスコの底に落ちていきますね。まるで重い物質のようです。そしてこれは、本当に重い物質なんです。これはロウソクのワックスが、液体の蒸気になったものであって、気体ではないことがわかっています(気体と蒸気とのちがいはおぼえておいてください。気体は気体のまんまですが、蒸気はいずれ凝集します)。ロウソクを吹き消すと、すごくいやなにおいがします。これは蒸気が凝集したせいです。これは、炎の外にあるものとは、かなりちがいます。これをもっとよくわかってもらうためには、この蒸気をもっと大量につくって火をつけてみましょう――というのもロウソクの中にあるのはほんのわずかで、これを十分に理解するには、科学者としては、必要なら大量に作ってみて、いろんな部分を調べて見なくてはならないんです。
というわけで、この蒸気がいったい何なのかを見せてあげましょう。こちらはガラスのフラスコにワックスをちょっと入れました。さあ、これをランプにかけて熱くしましょう。ロウソクの炎の中は熱いですからね。芯に入ったロウだって熱い。さあ、中にいれたロウがとけてきたのがわかります。ちょっと煙も出ています。まもなく蒸気があがってきますよ。どんどん熱くしましょう。もっと蒸気がでます。これで、この蒸気をフラスコからこのたらいに文字通り流し出して、そこで火をつけることができます。
で、これはまさに、ロウソクの真ん中にある蒸気とまったく同じ蒸気なんです。それをみんなに納得してもらいたいので、このフラスコの中にあるのが、ロウソクの真ん中から出てきた燃える蒸気なのかどうか、試してみましょう。ほら、こうして燃えますね。さて、これはロウソクの真ん中の蒸気で、自分自身の熱でつくられているものです。そしてこれは、ロウソクが燃えるまでの進行と、それがくぐりぬける変化の中で、真っ先に考えるべきことの一つです。
こんどは炎の中に別のガラス管を注意して差し込んでみましょう。そしてちょっと気をつければ、この蒸気がガラス管を通って反対側に出てきて、そこに火をつけてやれば、ずっと離れたところにまさにロウソクの炎そのものをつくってやれるんじゃないかな、と思うでしょう。ほーらごらん。とってもきれいな実験じゃないですか! ガスを引くって言うけれど――ロウソクだってこうやって引けるわけですな! そしてここからわかるのは、二種類のちがった活動がここにはあるってことです。一つは蒸気の生産で、もう一つは蒸気の燃焼です。そしてそのそれぞれが、ロウソクの中の別々の場所で起きているわけです。
すでに燃えた場所からは、蒸気はとれません。ガラス管を、炎の上の方に持っていってみましょう。さっきの蒸気が出きってしまったら、あとから出てくるものは、もう燃えません。燃えたあとのものなんですね。どういうふうに燃えたのか? えー、それはこういう具合です。炎の真ん中には、この燃える蒸気があります。炎の外側には、あとで見ますが、ロウソクが燃えるのに必要な空気があります。その中間で、激しい化学反応が起こっていて、そこでは空気と燃料がお互いに作用しあっていて、光が得られるのと同時に、中の蒸気も破壊されるんですね。ロウソクの熱がどこにあるかを調べると、とてもおもしろい配置になっていることがわかります。このロウソクに、こうして紙切れを近寄せますよね。そうしたら、炎の熱はどこにあるでしょう。炎の内部にあるんじゃないってことがわかりませんか? 熱は輪になってるんですね。まさにわたしが、化学反応が起きている場所だと言ったところに。いまやったこの実験は、あまりちゃんとやってはいないんですけれど、でもあまり炎が乱れなければ、必ずこの輪っかができます。
これはみんな、家でやってみるのにいい実験ですね。紙切れを一枚用意して、部屋の中の空気が静かになるようにして、その紙切れを炎の真ん中にこう、横切らせます――(この実験中はわたしもしゃべっちゃいけませんね)――そうしたらそれが 2 カ所で焦げているのがわかるでしょう。そして真ん中の部分はぜんぜん、というかほんのちょっとしか焦げないのがわかるでしょう。そしてこの実験を1、2回やって、きちんとできるようになったら、その熱があるのがどの部分なのか知りたくなるでしょう。見てやると、それは空気と燃料がまざりあうところなんですな。
これは、わたしたちのテーマについて進めるうえで、すごくだいじなところです。空気は、燃焼には絶対必要なんです。さらにもっといえば、ただの空気じゃなくて、新鮮な空気が必要なんだということを、ぜひとも理解してもらわなきゃいけません。さもないと、理論展開や実験のうえで、不完全になっちゃいます。
ここに、空気の入ったびんがあります。これをロウソクにかぶせると、最初はきれいに燃えますねえ。だからわたしが言ったのが真実だってことがわかります。でも、やがて変化が起きます。ほら、炎がだんだんたてにのびて、すぐにうすれて、ついには消えちゃいました。そして、なぜ消えたんでしょうか。単に空気がいるからというだけじゃないですね。びんにはいまでも、空気がいっぱい入ってます。炎は純粋で新鮮な空気がほしいんです。びんにいっぱい入っている空気は、一部は変化して、一部は変わっていません。でも、ロウソクの燃焼に必要な新鮮な空気は、じゅうぶんにはないんです。これはどれも、若き化学者としてわれわれがまとめあげなくてはならない点です。そして、こういう活動をもうちょっと詳しく見たら、とってもおもしろい理由づけのステップが見つかることになります。
たとえばここには、前に見せた灯油ランプがあります――われわれの実験用には最高のランプです――昔ながらのアルガン灯です。これを、ロウソクみたいにしてみましょう(と、炎の中心への通気口をふさぐ)。ここに綿があって、ここに灯油があがってきます。そしてここにコーン状の炎がありますね。でも、あまりよく燃えません。空気がかなり制限されているからです。炎の外側からしか空気がこないようにしたので、あまりよく燃えないわけです。外からはこれ以上空気は入れられません。この芯がでかいからです。でも、アルガンがとても賢くやったように、炎の真ん中に空気を通すような通路をあけたら、ほら、こんなにずっときれいに燃えますね。空気をとざすと、煙が出ます。でもなぜでしょう? さあ、研究にとてもおもしろい点が出てきました。まず、ロウソクの燃焼の問題があります。空気が足りなくてロウソクが消えるという問題があります。そして今度は、不完全燃焼の問題があります。これはわたしたちにしてみれば、すごくおもしろいので、最高の状態で燃えているロウソクのことと同じくらい、これもじゅうぶんに理解してほしいんです。
さあ、でっかい炎を作ってみましょう。実証するにはできるだけ大きいほうがいいですからね。ここに大きな芯があります(と綿の玉で松ヤニ脂を燃やす)。こういうのは、だいたいロウソクと同じことです。もし芯がでっかいなら、空気ももっとたくさん供給してあげないと、不完全燃焼が起こります。ほらほら、こうやって黒い物質が空気中にあがってますね。しかもそれがずっと筋になって続いています。ここに、不完全燃焼している部分を分ける装置を用意しました。さもないと(くさくて)みんながいやになっちゃいますからね。ほら、炎からすすが飛んでますねぇ。不完全燃焼ってのがよくわかるでしょう。空気が十分にないからです。すると、なにが起きているんでしょうか。ロウソクが燃えるのに必要なものが、いくつか欠けてるんです。だから結果として、ろくでもない結果が出てくるんです。でも、ロウソクが純粋できちんとした状態の空気の中で燃えると、どうなるか見てください。さっき、紙のこっち側が焦げる実験をしたときに、あの紙の裏側をひっくり返して見せてあげたほうがよかったですね。ロウソクが燃えると同じようなすすができるのがわかったでしょう――黒炭や、カーボンみたいな。
でもそれを見せる前に、まず話しておくべきことがあります。わたしたちの目的のためには是非とも必要なことです。ロウソクを使うと、ふつうの結果としては、こういう炎の形で燃焼が起こりますね。でも、燃焼が必ずこういう形になるのか、それとも別の状態の炎があり得るのかどうか、確かめなきゃいけません。そしてすぐにわかりますが、別の状態があるんです。そしてそれはわたしたちにとって、とてもだいじなんだということもわかるでしょう。たぶん、われわれ子供にとって、こういうののいちばんいい例というのは、ぜんぜんちがった結果が出てくるところを目の前で見せることでしょう。こちらにあるのは、火薬が少々。火薬は、炎をあげて燃えます――まあ、炎といって問題はないでしょう。火薬には炭素やその他の成分があって、それがいっしょになって、炎をあげて燃えるようにするんですな。さてこちらは鉄粉、つまりは鉄にやすりをかけた粉です。さて、こいつらをいっしょにして燃やしてみましょう。ここにちょっとモルタルがあるので、混ぜます。(この実験をはじめるまえに、おもしろがってこの実験を自分で再現してみようという人は、注意してやってくださいね。こういう物質はみんな、きちんと注意して扱えば思い通りになるけれど、でも不注意だとひどいことになるから)。
さてそれじゃ、ここに火薬がちょっと。これをこの木の入れ物の底にいれます。そして鉄粉をそれに混ぜましょう。わたしは、火薬が鉄粉に火をつけて空中で燃えるようにしたいんです。そうして炎をあげて燃えるものとそうでないもののちがいをお見せしたいわけです。
さあまぜましたよ。そして火をつけるから、燃焼を見ていてくださいよ。二種類の燃焼があるのがわかりますから。火薬が炎をあげて燃えて、鉄粉が上にまきあがります。鉄粉も燃えますが、炎は出ませんから。それぞれ独立して燃えます。
[ここで講師、混合物に火をつける]
はい、火薬がありますね、炎をあげて燃えています。そしてこっちは鉄粉ですが、燃焼の形がちがいます。ほら、二つがまったくちがっているのがわかりますねー。そして明かりをとるのに使う炎の効用と美しさは、すべてこのちがいに基づいているんです。油やガスやロウソクを照明に使いますけれど、それが照明に適しているのは、こういう燃焼の種類のちがいからくるんですな。
炎にもいろいろあって、中にはとても変わっているので、燃焼の種類を識別するのにかなりの知恵と繊細な区別が必要になります。たとえば、ここにある粉はとってもよく燃えます。これはいろんな小さな粉でできていてヒゲノカズラ粉末原注2-1というものです。この粉のそれぞれが蒸気をつくりだせて、それぞれが炎をつくれます。でもいっしょにして燃やすと炎が一つしかないように見えます。さあ、粉をまとめて火をつけてみましょう。どうなるでしょう。雲みたいな炎が見えて、一見一つの炎です。でも音を聞いてください [と、燃えるときの音を聞かせる]。このパチパチいう音は、これが連続した炎ではなく、均質な炎でもないことを証明するものです。これはパントマイムの人形劇で使う雷ですけれど、雷の代用としてはなかなかのもんですね。[この実験は、ヒゲノカズラをガラス管からアルコールランプに吹きこんで繰り返された。] さて、これはわたしがさっきまで話をしていた鉄粉の燃焼とはちがったものです。ここらで話を鉄粉に戻しましょうか。
ロウソクをもってきて、いちばん明るく見える部分を調べてみたとします。するとほら、こういう黒い粒子が出てきます。炎から何度もあがってきたのを見た、あの黒い粒子です。これをいまから、別のやりかたでつくって見ましょう。さあこのロウソクをとって、ロウがたれたあとをきれいにします。これは空気の流れのせいでできるんでしたね。ここでガラス管をもってきて、このいちばん明るいところにうまく入れてみましょう。最初の実験と似てますが、場所が少し高めです。ほら見てください。さっきみたいな白い蒸気が出てくるかわりに、こんどは黒い蒸気が出てきます。ほーら見てください、インキみたいに真っ黒ですねえ。前の白い蒸気とはぜんぜんちがってます。そして火をつけてみても、燃えませんね。むしろ火が消えちゃいます。
さて、この粒子は前にも言いましたが、ロウソクの煙なんですな。そしてこれは、スウィフト学長が召使いたちの暇つぶしに奨めた練習を思い出させてくれます。つまり、部屋の天井にロウソクで自分の名前を書いて見ろ、という練習です。でもこの黒い物質はなんなんでしょう。これは、ロウソクの中にあるのと同じ炭素なんです。なぜロウソクから出てくるんでしょうか? ロウソクの中にあったのはまちがいないですね。そうでなければ、ここに出てきたわけはありませんから。さて、これからする説明は、よーく理解してくださいよ。あなたたち、ロンドンの町中を飛び交っている、すすだの黒いほこりだのといった物質が、炎の美しさと生気のまさに源泉だなんて思いもしないでしょう。そしてそういうすすや黒いほこりが、ここで燃やした鉄粉みたいな形で、炎の中で燃えているんだというのもわかりませんね。ここに金網があります。炎はこれを通り抜けられません。さあ、これを炎のとても明るい部分にまで下げていくと、金網がふれたところはすぐに炎がなくなって、そこから煙があがってきますね。
さあ、これから話すことをよく理解してください――何かが燃えるとき、火薬の炎の中で燃える鉄粉でもそうですが、蒸気状態にならずに燃えることができます(液体になるか固体のままかは関係ありません)。このとき、それは大量の光を出します。ここでロウソク以外の例を 3 つか 4 つお見せしましたが、それはこの点をはっきりさせておきたかったからです。いま言ったことは、あらゆる物質にあてはまります。燃えるものでも燃えないものでも――固体のままであれば、すごく明るい光を出します。そして、ロウソクの炎が明るく輝くのも、こういう固体粒子が存在しているからなんですね。
これはプラチナの針金です。これは熱しても変化しない物質なんです。これをこの炎の中で熱してみると、ほーら、とても明るく輝くようになります。ちょっと炎をおさえて暗くしてみましょう。それでも、炎がプラチナ線に与える熱のおかげで、その熱源の熱よりもずっと低くても、プラチナ線をもっと明るく光る状態に持っていけるんですね。炎には炭素が入ってます。でも、炭素が入っていない例もやってみましょう。あの容器の中にある材質は、一種の燃料です――蒸気、ガスのどっちと言ってもいいです。固体粒子は入っていません。そこでこれを、固体をいっさい含まない炎の例として使いましょう。ここにこうして固体を入れてみると、すごい熱が出ているのがわかりますね。固体が輝いてますから。このパイプを通じて、あのガスが運ばれてくるわけです。このガスは、水素と呼ばれます。これについては、次回お目にかかるときになにもかもお話しましょう。さてこちらは酸素という物質で、これがあることで、水素も燃えられるんです。そしてこの両者を混ぜると、ロウソクなんかよりもずっと高温の炎が得られるんですけれど原注2-2、でも光はぜんぜん出てきません。ところが、固体を持ってきて中に入れてみると、強い光が出てきます。
石灰石を持ってきましょう。これは燃えないし、熱しても蒸気になりません(そして蒸気にならないので、固体のままで、ひたすら熱くなります)。これを炎にいれてみると、輝き具合がやがてわかります。水素と酸素が混ざって燃えているので、強烈な熱が出ています。でも光はぜんぜんありません――別に熱がないからじゃありませんね。固体のままでいられる粒子がないからです。でも、酸素の中で燃える水素の炎に、こうして石灰岩を入れてみましょう。ほら、こんなに光ります! これはまばゆいライムライトというやつで、電気の光にも匹敵し、ほとんど日光くらい強いものです。
ここにあるのは、炭素または木炭のかけらです。これは、ロウソクの中で燃えたのと同じように、燃えるしまったく同じく光も出します。ロウソクの炎の中にある熱は、ワックスの蒸気を分解して、炭素の粒子を解放します。それが熱されて上昇して、これと同じようにかがやいて、それから空中に入ります。でもその粒子は燃えると、ロウソクから炭素の形で出ていったりはしません。まったく目に見えない物質になって、空中に出ていきます。これについてはまたあとで調べましょう。
こんなプロセスが起きているというのは、すごいことではないですかね。そして木炭のような汚らしいものが、こんなに光り輝く状態になるとは。結局のところは、こういうことです――すべての明るい炎には、こういう固体の粒子が含まれているんです。そして、燃えて固体の粒子をつくるもの――これはロウソクみたいに、燃えている最中につくってもいいし、火薬と鉄粉の場合のように燃えた直後でもいいんですけれど――そういうのはすべて、このすばらしく美しい光を放つんです。
いくつか見本を。ここにあるのは燐のかけらで、明るい炎をあげて燃えます。よろしいですね。ということはですよ、燐は燃える瞬間か、あるいはその後で、固体粒子をつくるはずだと結論していいはずですね。じゃあこうして燐に火をつけて、出てきたものを逃がさないように、こうしてガラスで覆いをしておきましょう。この煙はなんでしょう。煙はまさに、燐の燃焼でできた粒子そのものなんです。
こっちはまた、別の物質が二種類です。カリウムの塩化物で、こっちはアンチモンの硫化物です。こいつをちょいと混ぜてやりますと、いろんな形で燃やせるようになります。化学反応の実例として、硫酸を一滴たらしてみましょう。ほら、すぐ燃えるでしょう原注2-3。 [講師、ここで硫酸によって混合物に火をつける。] さて、これがどう見えるかに基づいて、これが燃えるときに固体を作っているかどうか、自分で判断してみてください。固体ができているかできていないか、判断できるだけの理由づけの仕方は教えましたね? この明るい炎というのは、固体の粒子が光っている以外のなにものでもありませんね。
アンダーソンさんがかまどの中に、とても熱いるつぼを用意してくれましたよ。ここにこれから亜鉛の粉末を入れますが、すぐに火薬みたいに炎をあげて燃えます。この実験をやるのは、みんなが家でもできる実験だからですよ。さて、この亜鉛の燃焼の結果としてなにができるかを見てほしいんです。こうして燃えますよね――ロウソクみたいに美しく燃えてる、といっていいでしょう。でも、えらく煙があがってますね。それとこの小さな綿の雲みたいな固まりはなんでしょうか? 前に出てきて見られなくても、あとでまわして見せてあげますからね。いわゆる古い哲学的な綿(old philosophic wool)の形で、さわれるようになってます。るつぼの中にも、この綿っぽいものがかなり残ります。
じゃあ同じ亜鉛のかけらをとって、もっといわば手近な実験をやってみましょう。同じことが起きます。こちらは亜鉛のかけら。こちらは(と水素バーナーをさす)かまどですね。さあがんばってこの金属を燃やしてみましょう。こうして輝きますね。そして、ほら燃えます。そして燃えた結果の白い物質がこれです。さてここで、水素の炎をロウソクだと考えて、炎の中で燃える亜鉛みたいな物質を示したら、この物質が輝いたのは燃焼という活動の最中――つまり熱くなったときだけだったというのがわかります。だから水素の炎でこうして、さっきの亜鉛から出てきた白い物質を中にいれて見ますね。するとほら、ずいぶんきれいに輝くでしょう。これはもう、これが固体だからそうなるというだけのことです。
さて、ついさっき作った炎を使って、そこから炭素の粒子を解放してやりましょう。こちらはカンペンです。煙をあげて燃えますね。でもこの煙の粒子を、このパイプ経由で、こうして水素の炎に送ってみましょう。するとこれが燃えて、明るくなります。炭素粒子が改めて熱されるからですな。ほーらごらんなさい。これが、再点火された炭素の粒子です。炭素粒子は、紙を炎の向こう側にかざしてやると、簡単に見えるようになります。それが生み出された熱に点火されて、点火された結果として、こうして明るくなるんです。粒子が分離しないと、明るくなりません。炭素ガスの炎が明るいのは、燃焼途中にこういう炭素粒子が分離するからです。これはまさにロウソクと同じです。
この実験の環境は、すぐに変えてやれますよ。たとえばここに、ガスの明るい炎がありますね。仮にこの炎にものすごくたくさん空気を加えて、粒子が分離する前にすべて燃えてしまうようにしたとしましょう。そうしたら、こんな明るい炎にはなりません。こうすればそれを実現できます。まずガスの流れに、こうして金網の帽子をかぶせましょう。そしてその上からガスに火をつけます。すると、炎はまったく明るくなりません。燃えるまでに、空気とたっぷりまざるからです。そしてこうして金網を持ち上げると、金網の下では炎が燃えていないのがわかるでしょう原注2-4。ガスの中には、炭素はたっぷり含まれています。でも、空気がそこに到達できて、燃える前にガスと混じれるから、炎はほとんど無色に近い青になってるのが見えますね。
そしてこっちの明るいガスの炎に息を吹きかけて、炭素が輝くほど熱される前に燃え尽きるようにしましょう。するとこっちの炎も青くなります。 [講師、ガスの炎に息を吹き付けて、いまの発言を実証する。] こうやって息を吹き付けると、明るい炎にならない理由というのは、炭素が炎の中で分離されて、自由な状態になる前に、十分な空気と出会ってしまうということだけです。ちがいはひたすら、ガスが燃える前に固体粒子が分離されないという点にだけあるんですな。
ロウソクの燃焼の結果として、いくつかできるものがあるのはわかりましたね。そしてその産物の一部は、炭やすすと思っていいこともわかりました。その炭は、後で燃やすと、さらに別の産物をつくります。そしてこんどは、その別の産物ってのがなんなのか、というのがどうしても気になっちゃいますね。なにかが空中に出ていっているのはもうごらんにいれました。さあこんどは、どれだけのものが空中に放出されているかを理解してほしいんです。このためには、ちょっと大がかりに燃焼をやってみましょう。ロウソクからは、熱い空気が立ちのぼります。でも、そうやって上昇する物質の量をつかんでもらうために、燃焼から出てくる産物の一部をつかまえてみましょう。
このために用意したのが、男の子たちが熱気球と呼んでいるものです。ここではこの熱気球を、われわれの考えている燃焼から出てくるものをはかるための、計量容器がわりにだけ使いましょう。さあ、この目的にぴったりの形で、簡単かつ楽に炎をつくってみましょう。このお皿は、いわばロウソクの「くぼみ」にあたります。このアルコールが燃料です。そしてこいつに、こうやって煙突をかぶせましょう。めくら滅法につかまえるより、こうしたほうが都合がいいからです。アンダーソンさんが燃料に火をつけてくれますよ。そしててっぺんのところから、燃焼の結果が出てくるはずです。
この管のてっぺんから出てくるものは、一般的にいって、ロウソクの燃焼から出てくるものと、まったく同じです。でもここでは炎は明るくありません。アルコールには炭素があまり含まれていないからです。さあこの気球をこうして――飛ばしはしませんよ、それはここでやりたいことじゃないですから――ロウソクからあがる産物の働きの結果を示したいだけです。ここの火から立ちのぼってくるのと同じようにね。 [気球をロウソクの上にかぶせると、すぐにふくらみだした。] さあ、こいつが上昇したがってるのがわかりますね。でも行かせてはだめです。このままあがると、天井のガス灯に接触しちゃうでしょう。そうなったらとても困りますからね。 [天井のガス灯が、講師の要望で消されたので、気球は上昇させてもらえた。] これで、大量の物質が生み出されているのがわかりませんか訳注2-1?
さて、こちらのガラス管の中は [とロウソクに大きなガラス管をかぶせる] 、このロウソクの産物すべてが通過するわけですが、すぐにわかるのは、このガラス管がかなり曇ってくるということです。別のロウソクを、こんどはびんの下に置いてみましょう。そしてびんの向こう側から光をあてて、ちょっと見やすくしましょう。びんの横のところが曇ってきて明かりも暗くなってきますね。明かりがこんなに暗くなるのと、びんの内側がこんなに曇ってくるのとは、同じ産物のせいなんです。
おうちに帰ったら、冷たい空気の中にあったスプーンを用意して、それをロウソクの上にかざしてみましょう――すすがつかないくらいには離してくださいよ――すると、いまのびんが曇ったみたいに、スプーンも曇るはずですよ。銀のお皿かなんかがあったら、もっとはっきりわかる実験ができるでしょう。そして次回お目にかかるときまでのお楽しみに、こうやって曇るのは水のせいだということをお話しておきましょう。今度集まったときには、その水を簡単に液体にさせられるんだ、ということをお見せします。
註:
- 原注2-1:
- ヒゲノカズラ粉末は黄色っぽい粉で、ヒゲノカズラ (Lycopodium clavatum) の果実からとれ、花火に使われる。
- 原注2-2:
- ブンゼンの計算によると、酸化水素の吹官の温度は 8,061℃ である。空中で燃焼する水素は、3,259℃ になり、空中で燃える石炭ガスは 2,350℃ になる。
- 原注2-3:
- 硫化アンチモンと塩化カリウムの混合物に硫酸が火をつける化学反応は以下のとおり。塩化カリウムの一部が硫酸によって、塩素酸と二硫化カリウム、過塩素カリウムに分解される。塩素酸が燃えやすい硫化アンチモンに火をつけて、全体がすぐに燃え出す。
- 原注2-4:
- 実験室でとても重宝する「エアバーナー」は、この原理を使って特徴を出している。このバーナーにはシリンダー状の金属の煙突がついていて、そのてっぺんを、ちょっと粗い金網が覆っている。これがアルガンバーナーの上に取り付けられて、このためガスが煙突の中で空気とまじり、炭素と水素を同時に燃やし尽くせるようになる。このため、炎の中で炭素が分離されず、したがってすすも出ない。炎は、金網を通れないので、金網の上のところで安定してほとんど目に見えない炎となって燃え続ける。
- 訳注2-1:
- そうかな。単に熱で空気が膨張しているだけ、とも考えられるから、これで物質が出てきているかどうかはわからないのではないかな。
第 3 章 燃焼の産物――水の性質――化合物――水素
前回お別れしたときには、ロウソクの「産物」ということばを持ち出したのは、もちろんご記憶だろうと断言しちゃいましょう。ロウソクが燃えるときには、うまい工夫をすれば、いろいろな産物をそこから取り出せましたよね。ロウソクがきちんと燃えているときには得られない物質が一つあって、これは炭素や煙でした。そして炎から上昇していく物質もありましたね。これは煙にはならず、別の形であらわれてきて、ロウソクから上のほうに上がっていく気流の一部になって、透明なかたちで逃げ去っていきます。ほかにもふれておくべき産物はあります。ロウソクから出てくる上昇気流では、一部は冷たいおさじやきれいな皿みたいな冷たい面をかざすと、凝集しましたね。そして凝集しない部分もありました。
まずは凝集する部分を見てみましょう。するとですね、ロウソクの産物のこの部分は、ただの水だというのがわかります――なんの変哲もない水。こないだこの話をしたときには、これについてはさらっとしか述べませんでしたね。ロウソクの凝集する産物の中には、水も作られてるんですよ、と言っただけでした。でも今日は、この水にちょっと注目してもらいましょう。ロウソクとの関わりでもっと細かく検討しますし、地球の表面のいたるところにあるという点でも考えてみましょう。
さて、ロウソクの産物から水を凝集させる実験をやったから、次にこの水をお見せすることにしましょう。そして、水があることをこれだけ大勢の人にまとめて示すいちばんいい方法は、目に見えるような形で水の働きをお見せしてから、この容器の底に集められた滴に同じ試験をしてみることでしょう。
ここにあるのはハンフリー・デイヴィー卿が見つけた化学物質で、水に触れるととても激しい反応を示します。これを使って水の存在を試してみましょう。この物質をちょいととって――これはカリウムというもので灰汁からとれるんですよ――こいつをちょいととって、たらいに投げ込むと、水面に浮いて燃え上がって、紫色の炎をたてます。これで水があるのがわかりますね。ではこんどは、塩と氷を入れた容器の下で燃えていたロウソクをどけます。すると容器の底に水滴が見えます――ロウソクの産物が凝集したんですな――お皿の底の面にぶらさがっています。カリウムは、さっきの実験でのたらいの水と同じ反応を、この水滴に対しても示します。それを見てみましょう。
ほら! 炎があがって、まったく同じように燃えます。もう一滴とってこのガラス板の上において、カリウムを乗せると、炎があがるから水があるのがすぐわかりますね。この水はロウソクからできたものです。同じように、このアルコールランプをあのびんの下に置くと、びんに蒸気がついて曇ってきます――この露も燃焼の結果です。そして下の紙に水がそのうちたれてくるので、ランプが燃えて水がかなりできているのがわかるでしょう。しばらくこのままほっときますね。あとで水がどれほどたまったか見てください。
で、ガスランプを持ってきて、なんでもいいから冷やすような仕掛けを上につくると、これも水ができます――ガスが燃えても水ができるんですね。こっちのびんの中には、水がたっぷり入っています――完全に純粋な蒸留水で、ガスランプを燃やしてつくったものです――この水は川や海や泉の水を蒸留したものと何のちがいもありません。完全に同じものです。水は一つの独立した物体です。決して変わりません。慎重に工夫してやれば、しばらくの間は別のものを追加はできるし、分離して別のものを取り出すこともできます。でも水としての水は、いつも同じままで、固体だろうと液体だろうと、流れていようと水は水です。こちらにも [と、別のびんを手に取る]、オイルランプの燃焼からできた水があります。オイルを一パイント、きれいにきちんと燃やすと、一パイント以上の水を作り出します。こっちにはまた、かなり長時間の実験を経て、ワックスのロウソクからとった水があります。こんな具合に、燃えるものほとんどすべてについて、この調子で水がとれます。ロウソクみたいに炎をあげて燃えると、水ができるんです。この実験は自分でもやれますよ。火かき棒の先でやってみるととてもうまくできます。ロウソクの上で冷たいままになっていれば、水が凝集してつぶになります。あるいはおさじとか、お玉とか。きれいで、熱をよく伝えるものならばなんでも使えます。水が凝集するはずです。
さてこんどは――燃えるものから燃焼によって水が見事にできるという仕組みを詳しく見ると――まずはこの水が、別の状態で存在しているんだ、ということをお話ししなくてはなりません。そして水のいろいろな形態はもうすでにおなじみかもしれませんが、でもここで、ちょっと確認しておく必要があります。水が変幻自在に変わる中でも、まったく完全に同じ水で、ロウソクから燃焼でできようと、川や海からとってきても同じだ、ということを理解するためです。
まず、水はいちばん冷たいと氷になります。さてわれわれ科学者は――この場合、わたしとみなさんを同じ科学者というくくりにまとめてかまわないと思いますが――水は水として扱います。それが固体だろうと、液体だろうと、気体状態だろうと――それは化学的には水です。水は2つの物質が化合したものですが、その一つはロウソクからでてきたもので、もう一つは別のところからきています。水は氷になります。これは最近はあちこちでお目にかかる機会がありますね。氷は水に戻ります――こないだの安息日には、この変化の強烈な見本が起きて、我が家や友人たちの家の多くではかなり困った惨事が起きたもんです――氷は、温度が上がると水に戻ります。水は、十分に熱すると蒸気にもなります。いまここにある水は、いちばん密度の高い状態のものです原注3-1。そして重さや状態や形態など各種の性質は変わりますけれど、水は水のままです。そしてそれを冷やして氷にしても、熱で蒸気にしても、体積は増えます。一方ではとても奇妙な形で強力に、そしてもう一方では大規模かつすばらしい形で。たとえば、このブリキの円筒の中にちょっと水を入れます。どのくらい入れているかは、容器の中での水面の上がり具合でわかるでしょう。底から5センチくらいのところまできました。さて、この水を蒸気にして、水が水のときと蒸気のときで体積がどれくらいちがうかをお見せしましょう。
さてこんどは、水が氷になるときを見てみましょう。これをやるには、水を塩と砕いた氷の混合物に入れて冷やすといいんです原注3-1――そしてこうすることで、水が冷えて氷になると膨張するのをお見せしたいんです。このびんは [と一つ手にとって] 強力な鋳鉄でできています。とても強く厚い鉄です――厚みにして1センチ近くあります。これに注意して水を入れて、空気がまったく入らないようにしてから、しっかりふたをします。この鉄の容器の水を凍らせると、氷を閉じこめておけなくなります。中身が膨張するので、容器はバラバラになってしまいます。[と断片を指さす]こんなふうに壊れます。これはもとはまったく同じ容器だったんですよ。じゃあこのびん2つを氷と塩の混合物に入れて、水が氷になるときにはこういうすさまじい形で体積が変わるのをお見せしましょう。
さてその間に、熱を加えたほうの水にはどんな変化が起きたか見てみましょう。液体の状態を失ってきています。これは二、三通りの方法でわかります。こうやって水が沸騰しているガラスのフラスコの口に、時計のガラスをのせてふたをしてみました。なにが起きたか見えますか? カタカタいうバルブみたいに、カタカタと開閉します。沸騰した水から上がってくる蒸気がバルブを持ち上げたり下げたりして、なんとか外にでようとするので、それでカタカタいうんですね。フラスコが蒸気でいっぱいなんだというのもすぐわかるでしょう。さもなきゃ、無理矢理出なくてもいいはずですから。あと、フラスコに入っている物質は、水よりもかなり体積が大きいのもわかります。フラスコ何杯分にもなっているわけで、それがどんどん空気中に出ていきます。でも、水のほうの体積はあまり減った様子はありません。だから水が蒸気になるときには、体積の変化はかなり大きいんだというのがわかります。
こっちの冷たい混合物に、水を入れた鉄のびんを入れてみました。なにが起きるか見てみましょう。びんの中の水と、外の容器の中の氷とでは、水が出入りしたりはしません。でもこの間では熱はやりとりされるので、うまくいけば――というのも、いまはこの実験をずいぶんあわててやろうとしているので――いずれ、冷たさがびんやその中身に影響してきたら、どれかのびんが破裂してパチンという音がするはずです。そしてそのびんを見てやると、その中身は氷のかたまりで、それが鉄の容器の中に一部しかおさまっていません。氷は水よりも体積が大きいので、鉄の容器は小さすぎて入らないのです。氷が水に浮くのはよーくご存じでしょう。男の子が氷の穴から水に落ちたら、氷の上にあがって浮かぼうとしますね。なぜ氷は浮かぶんでしょうか。これを考えて、思索してみましょう。氷はそれをつくる水よりも体積が大きいので、だから氷のほうが軽くて、水の方が重いわけですね。
では、熱した水のふるまいに戻りましょう。このブリキの容器から、すごい蒸気のながれが吹き出してますな! こんな大量に蒸気が出てくるというのは、かなりこいつを蒸気でいっぱいにしたってことでしょう。さてこんどは、水を熱して蒸気にできるんだから、冷気を使えばそれを液体の水に戻せますよ。コップとか、あるいは冷たいものならなんでも、こうやって蒸気にかざしてみましょう。すぐに水でしめってきますよ。水が凝集してきて、だんだんコップも暖かくなってきます――水が凝集してきて、もうコップの横を水がつたいおちてきてますね。
水が蒸気の状態から液体の状態に凝集するのを示すのに、もう一つ実験をしてみましょう。さっきのは、ロウソクの産物の一つだった蒸気を、お皿の底に凝集させて水として集めたのと同じやり方です。こうした変化がどれだけ見事に徹底的に生じるかを示すために、このブリキの容器――これはいま蒸気でいっぱいです――を持ってきて、てっぺんを閉じます。外から冷水をかけて、この水というか蒸気が液体に戻るようにしたらどうなるか、見てみましょう。 [講師が容器に冷水をかけると、すぐにひしゃげた。] いまのを見ましたね。ストッパーを閉じたまま、熱を加え続けたら、容器は破裂したはずです。逆に、蒸気が水に戻ったら、容器はこうしてつぶれます。蒸気が凝集したので中が真空になったからです。こういう実験を見せたのは、こういうできごとすべての中で、水をそれ以外のものに変えるようなことはなにも起きていない、ということを示すためです。水は水のまま。だから容器が負けて、内側にひしゃげるわけですな。一方でもし熱を加え続けたら、これは外側に向かって爆発したでしょう。
で、水が蒸気になったときに、その体積はどのくらいになると思いますか? こっちに立方体があります [と30センチ角の立方体を指さす]。横に、2.5センチ角の立方体があります。形は30センチ角のものとまったく同じですね。この体積の水 [と2.5センチ角をさす] は、蒸気になるとこの体積 [30センチ角の立方体] にまで広がります。そして逆に、こんな大量の蒸気を冷やしてやると、こんなわずかな量の水になっちゃうんですね。 [このとき、鉄のびんが一つ破裂。] おお! びんが一個、破裂しましたね。ほら、こうして幅3ミリくらいの割れ目ができてます。 [びんがもう一つ破裂し、凍った中身をそこら中に飛び散らせる。] びんがもう一個破裂しました。このびんの鉄は厚さ1センチもあったんですけれど、氷がそれをあっさり破りました。こういう変化は、水ではいつも起こっています。こんな人工的な形でつくる必要はありません。ここで人工的にやったのは、長く厳しい本物の冬ではなく、この小さなびんのまわりにだけ小さな冬を作りたかったからです。でもカナダとか、あるいは北部に行けば、外の気温だけで、この氷水と同じようなことが起きるのが見られますよ。
さてわれわれの静かな考察に戻りましょう。この先われわれは、水に生じる変化には惑わされないようにしましょう。水はどこでも同じです。それを海からとろうと、ロウソクの炎からとろうと。では、ロウソクから出てくる水というのは、どこにあったのでしょうか。ここでちょっと先回りさせてもらって、答えをいっちゃいましょう。それはもちろんロウソクから、少なくとも一部は出てきたんですが、もとからロウソクの中に水があるんでしょうか? いいえ、ロウソクの中にはありません。そして燃焼のために必要な、まわりの空気の中にあるわけでもないんです。あっちにもこっちにもなくて、その両者がいっしょになって働くことで生じるんです。一部はロウソクから、一部は空気から。そしてこれをこんどは追っかけてみましょう。そうしないと、テーブルの上でロウソクが燃えているときに、その化学的な性質が完全に理解できたことになりませんからね。さて、どうすればいいでしょうか。わたしはいろいろやりかたを知ってるんですが、でもみんなにも、自分の頭の中で、わたしがこれまでお話したことをいろいろ組み合わせて思いついてほしいんです。
ちょっとこういうふうな考え方をしてみるといいかもしれません。ついさっき、ハンフリー・デイヴィー卿が示してくれた形で水と反応する物質の例を見ましたね原注3-3。これをこのお皿の上でもう一回やってみて、みんなに思い出してもらいましょう。こいつはとっても慎重に取り扱わないとダメなんです。というのも、この固まりに水をちょっとでもこぼしたら、そこのところが燃え出します。そして空気に勝手に触れさせると、全体がすぐに燃え出しちゃうんですよ。さて、こいつは金属です――美しくてきれいな金属です――これは空中では急速に変化するし、水の中でも急速に変わります。水にひとかけら入れてみると、ほら、こんなふうに美しく燃えて、浮かぶランプになります。空気のかわりに水を使って燃えるんです。
あるいは、鉄粉や鉄の削りクズを水に入れると、これまた変化を起こします。このカリウムみたいな変化ではありませんが、ある意味では同じような変化です。さびてくるんですね。そして水に反応します。ただしこの美しい金属ほどの強烈さではありませんが。でも、このカリウムとおおむね同じ形で水に作用するわけです。こういう別々のできごとを、頭のなかでは一つにまとめておいてほしいんです。ここには別の金属 [亜鉛] があります。こいつを、燃焼してできた固体の物質との関係で分析すると、こいつが燃えるのはさっき見た通りです。そしてたぶん、この亜鉛を一筋とって、こうしてロウソクにかざすと、なんかさっきの中間くらいのものが見えます。いわば水の上のカリウムの燃焼と、鉄の作用の真ん中あたり――一種の燃焼が見えます。燃えて、白い灰というか残存物を残しましたね。そしてここでも、この金属が水に対してある程度の作用をするのがわかります。
だんだん、こうしたちがう物質のふるまいを変えさせて、それにこちらの知りたいことを説明させる方法について学んできましたね。ではまず、鉄をとりましょう。あらゆる化学反応でごくふつうのことですが、こういう結果が得られたら、それは熱のふるまいによって増えます。そして物質同士の反応を細かく慎重に検討したいなら、しばしば熱のふるまいを検討しなきゃいけません。
鉄粉が空気中で美しく燃えるのは、ご存じだと思います。でもここである種の実験をしてみます。それは、鉄が水に対して反応する場合について、わたしの論点を強調してくれるからです。炎があって、それを中空にしたら――理由はわかりますね、炎の中に空気を入れたいから、中空にするんですね――そして鉄粉を少々その炎の中に入れると、実にきれいに燃えます。この燃焼は、この粉末に点火したときに起こる化学反応の結果です。そこで、こうしたいろいろな影響を検討してみましょう。そして鉄が水と出会うとどうなるかを考えてみましょう。こいつは実に見事に、だんだんきちんとその話を物語ってくれるので、みなさんもすごく喜ぶと思いますよ。
ここにあるのは溶鉱炉で、その中に管が通っています。鉄の銃身みたいな感じですな。そしてその銃身のところに、輝く鉄の削りクズを詰めてあります。そしてそれを火にかけて真っ赤に熱しておきました。この銃身に空気を通して鉄と接触させてもいいし、こっちの端にあるボイラーから蒸気を送ることもできます。ここんところに止め栓がついていて、こっちの希望するまで、銃身に蒸気が行かないようにしてあります。こっちのガラスびんには水が入っています。青く色をつけてあるので、みんなもなにが起きているか見やすいでしょう。さて、この銃身のところに蒸気を通して、それが水に入っていったら、凝集されるのはよくわかっていますよね。というのもこれまで見たように、蒸気は冷やすと気体のままではいられないからです。ここで [とブリキの容器を指さして] 蒸気が小さな体積へと縮んで、それが入った容器もつぶしたのは見ましたね。だから、あの銃身に蒸気を通したとき、それが冷えていれば凝集して水になります。でもいまは、これから実験をするので銃身は熱してあります。
蒸気をちょっとずつ銃身に送り込みますよ。それが反対側から出てきたときに、まだ蒸気のままか、自分の目で判断してください。蒸気は凝集すると水になるし、蒸気の温度を下げると、それは液体の水になります。でも鉄の銃身を通って集まった気体の温度を、こうして水に通して冷やしていますが、いつまでたっても水に戻りませんね。別の試験をこの気体に加えてみましょうか。(びんを逆さまにしておくのは、そうしないと物質が逃げてしまうからです)。びんの口に火をもっていくと、ヒョッと音をたてて燃えます。これで、びんの中身が蒸気ではないのがわかりますね。蒸気は火を消します。燃えたりしません。でも、いまびんの中にあったものが燃えたのをみましたね。
この物質は、ロウソクの炎から得られた水でも、ほかのどこからとった水からでも得られます。鉄が水の蒸気に反応することでこの物質をつくると、残った鉄は、この削りクズを燃やしたときと非常によく似た状態になっています。鉄は前より重くなります。鉄がこの管の中に入ったままで熱されて、空気や水に触れずに冷やされたら、重さは変わりません。でもこの蒸気の流れが中を通過すると、前より重くなります。蒸気から何かを取り出して、それ以外のものが先に進めるようにしたわけです。それがここにある物質ですね。
さあ、びんがもう一ついっぱいになったので、すっごくおもしろいものを見せてあげましょう。こいつは燃える気体なんです。だからこのびんをとってその中身に火をつけて、燃えます、というのを見せてもいいんです。が、できればもっとおもしろいことを見せたいですね。こいつはすごく軽い物質でもあるんです。蒸気は凝集します。この物体は空中を上昇して、凝集しません。ガラスのびんをもう一つ持ってきます。こいつは空気以外はなにもない空っぽです。では、いま話題の物質でいっぱいのびんをもって、それを軽い物体として扱いましょう。両方とも逆さまにしておいて、片方をもう片方の下で傾けて見ましょう。すると、蒸気から得た気体の入ったびんには、いまはなにが入っているでしょうか? 空気しか入っていないのがわかります。でもごらんください! こっちには、あの燃える物質が入っています。あのびんからこっちのびんに注いだんですね。相変わらず同じ性質、条件、独自性を保っています。だからロウソクの産物として、われわれの検討に十分値するわけです。
さて、鉄が蒸気や水と反応してできたこの物質は、これまで見てきた、水と強烈に反応するほかのものによっても得られます。カリウムのかけらをとって、必要なしつらえをすれば、この気体ができます。そしてかわりに亜鉛のかけらを使ってみますと、これを慎重に調べてみるとですね、この亜鉛がほかの金属みたいに水と絶えず反応を続けない理由は、水との反応の結果、亜鉛がなんだか保護する被膜みたいなもので包まれちゃうからなんですな。だから結果として、この容器に水と亜鉛を入れただけでは、この両者だけでは大した反応が起きないことがわかりました。だから、何の結果も生じません
でも、この外皮――このこびりつく物質――を溶かし去ってしまったらどうでしょう。これは酸をちょっとばかり使えばいいのです。そうした瞬間に、亜鉛はまったく鉄と同じように水と反応します。しかも常温で。酸はまるで変わっていません。ただし、亜鉛の酸化物と化合した部分だけ変わっています。さあ酸をコップに入れてみましょう、するとこいつに熱を加えて沸騰しているみたいな反応が出ますね。亜鉛からえらく元気よく上がってくるものがあります。蒸気じゃないです。この物質をこのびんいっぱいに集めてみました。するとこれが、鉄の銃身の事件で作った物質とまったく同じ、燃える気体なのがわかります。こうして逆さにして、容器の中に残っているものと同じですね。これが水から得られるものです――ロウソクの中に含まれるのと同じ物質です。
じゃあここで、この二点の関連についてきちんと追いかけて見ましょう。これは水素です――化学でわれわれが元素と呼んでいるものの一つです。元素からはそれ以上なにも取り出せません。ロウソクは元素ではありません。ロウソクからは炭素を取り出せるし、水素も引き出せます。少なくともここから出てくる水をとって、そこから水素を抽出することは可能ですね。そしてこの気体が水素という名前なのは、別の元素と化合して水になるからです原注3-4。
アンダーソンさんが、この気体をびん2、3個分集めてくれましたので、いくつか実験をやってみましょう。こういう実験をやるいちばんいい方法を見せたいんです。見せるのはこわくはないですよ。是非ともこういう実験をやってほしいんですから。ただそのとき、注意して慎重にやって、まわりの人の安全に気をつかわないとだめです。化学を進めると、まちがった場所にあると危害を与えるような物質を取り扱う必要が出てきます。われわれが使う酸や熱や燃えるものは、不注意に扱えば、有害になっちゃいます。
水素をつくりたければ、 亜鉛のかけらと硫酸か塩酸で作れます。ここにあるのが、昔は「哲学者のロウソク」といわれていたものです。小さなガラスびんに、ガラス管を通したコルクをはめたものです。さ、亜鉛のかけらを2、3個入れましょう。このちょっとした道具は、これからいろいろお見せするときに、とても便利に使えるんです――まずはあなたたちも水素が作れるのを示して、自分の家でも好きなときにこういう実験ができるんだ、というのを示したいんです。
さあここで、なぜわたしがガラスびんをかなりいっぱいにしているけれど、完全に満杯にはしないように注意しているかを説明しましょう。これはですね、出てくる気体はすでにお見せしたようにとても燃えやすくて、空気とまぜると爆発するようになるからです。だから液体から上の部分の空気が全部なくなる前に、このガラス管に火をともしたら、あぶないことになりかねないんですよ。
では、硫酸を注ぎましょう。亜鉛はほんのちょっと、そして硫酸と水は多めに使います。ちょっと長目に動き続けてほしいからです。ですから、こうして中身の構成比を変えてやって、水素の出方が一定になるようにするんです――はやすぎもせず、遅すぎもせず。
さて、ここでコップを持ってきて、このガラス管の上にひっくり返してかぶせます。すると水素は軽いですから、この容器にしばらくたまっているはずです。さあこのコップの中身を調べて、水素が入っているか見てみましょう。うん、多少つかまえられたみたいですよ。ほうら、ごらんなさい。じゃあ、このガラス管のてっぺんに火をつけてみましょう。水素が燃えてます。これが我らが哲学的ロウソクです。はかない、弱々しい感じの炎だな、と思うかもしれませんね。でもすごく高熱で、そこらの炎なんかとは比べものにならない熱を出します。このままずっと燃え続けるので、別の条件下で燃やしてみましょう。その結果を調べてみて、そこから得られた情報を活用しましょう。
ロウソクは水をつくるし、この気体が水から出てくるんなら、ロウソクが大気中で燃えたのと同じ燃焼プロセスで、なにが出てくるかを見てみましょう。で、このためには、ランプをこんな装置の下に置いてみましょう [と講師は、漏斗をひっくり返してそこに横向きの太い試験管をつなげたような装置をとりだして、燃える水素をその漏斗の下のところに置いた] 。これで、燃焼から出てきたものはすべて、この円筒の中に凝集されることになります。
ちょっと待つだけで、この円筒に湿気が見られるようになります。やがて水がその中をつたい落ちはじめます。そしてこの水素の炎から得られる水は、各種の試験すべてに対してまったく同じ反応を示します。これまでと同じ、一般的なプロセスで得られたものだからです。
この水素というのは、実に美しい物質です。すごく軽いので、ものを上に浮かせます。空気よりずっと軽いんです。そしてこの点については実験で示せます。この実験は、あなたたちがとっても賢ければ、自分でも再現できる人はいるはずですよ。
こちらにあるのが水素発生装置で、こっちには石けん水があります。水素発生装置に、インドゴム管をつけて、その管の先っぽにたばこ用のパイプを取り付けました。で、こうしてパイプを石けん水に入れると、水素でしゃぼん玉を作れます。こいつをわたしの暖かい息でふくらませると、シャボン玉は下に落ちていくのがわかりますね。でも、水素でふくらませると、ちがいがわかるでしょう。 [ここで講師は水素でシャボン玉をふくらませると、それは講堂の天井まで飛んだ。] ただのシャボン玉どころか、この下にでかい滴がぶら下がったままで上がっていくというのは、この気体がすごく軽い証拠ですな。
どんなに軽いか、もっといい方法でお見せしましょう。こんなのより大きなシャボン玉でも上がるんです。昔はこのガスで気球を満たして飛ばしていたんですよ。アンダーソンさんがこの発生器に管をつけてくれます。すると水素の流れができて、これでコロジオン製の風船をふくらませられます。空気をきちんと追い出すとか、別に気にしません。この気体の上昇力はよく知ってますからね。 [コロジオン風船二つがふくらまされて上昇。一つは糸でつないであった。] こっちにもう一つでかいのがあります。薄い膜でできていて、これをいっぱいにするとこうして上昇していきます。ガスがぬけるまで、みんなふわふわ浮かんだままでいますよ。
じゃあ、こういう物質の重さを比べるとどういうことになるでしょうか。ここに、それぞれの重さを比べてみた表があります。目安として、0.5 リットルと 30 センチ角立方を目安にして、それに対応するものがどのくらいになるかを示しています。この水素 0.5 リットルは、たった0.02グラムの重さで、水素の 30 センチ角立方は 2.5 グラムの重さしかありません。これが水だと、0.5 リットルで 500 グラム、水が30センチ角立方だと27kgにもなります。だから、水の 30 センチ角立方と、水素の 30 センチ角立方とでは、重さにどえらい差があるわけです。
水素は、燃焼中も、燃焼後の産物としても、固体になるようなものはつくりません。燃えるときには水ができるだけです。だから冷たいコップをとって火の上にかけると、すぐにしめって、即座にそれとわかるだけの水ができます。そして水素が燃焼してできるのは、ロウソクの燃焼でも生じた水だけなんです。燃えて水しかできないのは、自然界でこの水素だけだというのは、是非とも覚えておいてください。
では、水の一般的な性質と組成について、さらに追加の証明を探さなくてはいけません。だからもうちょっとみんなにいてもらいましょう。次にお目にかかるときに、この話の下準備ができているようにね。酸の力を借りて水に亜鉛が作用するときの力はお目にかけましたよね。その亜鉛を並べて、すべての力がこちらの思い通りの場所で発生するようにできるんです。わたしの後ろにあるのは、ボルタ積層電池です。そして今回の講義のおしまいに、こいつの特徴とパワーをこれからお目にかけます。次回、どんなものを扱うことになるかわかってもらうためです。ここには、この背後からパワーを運んでくる電線を持っています。こいつを次回は水に作用させてみます。
まえに、カリウムや亜鉛、鉄の粉末が燃えやすいことは見ましたね。でも、これほどのエネルギーを見せたものはありませんでした [ここで講師は、電池の両端からのびた電線をふれあわせた。するとまばゆい輝きが生じた。] この光は実は、亜鉛を40枚重ねた燃焼力で生じたものです。このパワーを、電線を通じて気の向くままに持ち歩けるんですけれど、でもこれをうっかり自分にあてたりしたら、わたしは一瞬で死んでしまいます。こいつは実に強力なもので、ここでみんなが5つ数える間に目の前で出てきているパワーは [と両極を接触させて電気の光を示す] 雷嵐数個分にも相当するほどなんですよ。そのくらいこいつの力はすごいんです原注3-5。こいつがどのくらい強烈なエネルギーをもっているか、みんなにわかってもらうために、電池からのパワーを伝える電線の端っこを持ってくると、こうしてこの鉄粉を燃やせちゃいますな。さて、こいつは化学的な力なので、これを水に適用したらどんなことになるでしょうか。次回はそれをお見せしましょう。
註:
- 原注3-1:
- 水の密度が一番高いのは、華氏 39.1 度のとき。(訳注:摂氏では 4 度)。
- 原注3-2:
- 塩と砕いた氷の混合物は、温度が華氏 32 度(摂氏 0 度)から華氏 0 度(摂氏マイナス17.18度)に下がり、同時にその氷は液体になる。
- 原注3-3:
- カリウムは灰汁の金属成分で、1807 年にハンフリー・デイヴィー卿が発見した。デイヴィー卿は強力なボルタ電池を使って、灰汁からカリウムを分離するのに成功した。カリウムは酸素との親和性がとても強いので、水を分解して酸素を奪い、このために水素ができて、これがそのときの熱のために燃え上がる。
- 原注3-4:
- Yowpが水の意味で、yevvawが「生成する」という意味。
- 訳注3-5:
- ファラデー教授は、水を0.065グラム電気分解するためには、とても強力な稲妻と同じくらいの電気が必要だということを計算している。
第 4 章 ロウソクの中の水素:燃えて水に――水の残りの部分:酸素
みなさん、まだロウソクに飽きていないみたいですねえ。さもなきゃこんなにロウソクに興味を持ってくれるはずはないですからね。
さてロウソクが燃えているときには、われわれの身の回りにあるのとまったく同じ水ができるのがわかりました。そしてこの水をもっと調べてみると、その中にあの水素というへんてこな物質があるのがわかりました。とても軽い物質で、このびんの中に少し入ってます。さらに、その水素がよく燃えて、燃えると水ができるのも見ました。そして確か、化学力というかパワーというかエネルギーをうまくしつらえて、この電線に力が流れてくるような仕掛けをちょっとお目にかけたはずです。そして、この力を使って水を分解して、水の中に水素以外になにがあるのかを見てみよう、とも申し上げましたね。というのも、覚えていると思いますが、水をあの鉄の管に通したら、気体はたくさん出てきましたけれど、蒸気としてそこに通した水だけの重量はとても回収できていなかったでしょう。じゃあ、他にはどんな物質があったか見なきゃいけませんね。
さて、この道具の特徴と使い方を理解してもらうために、ちょいといくつか実験をやってみましょう。まずは、素性のわかった物質をもってきて、この道具がそれになにをするか見てやりましょう。こっちにあるのは銅です(これがいろいろ変化をするのでご覧じろ)。そしてこっちにあるのが硝酸。この硝酸はとっても強力な化学物質なので、これを銅に注ぐと強力な反応が起きます。ほら、きれいな赤い蒸気があがってますね。でも、この蒸気はいらないので、アンダーソンさんにしばらく煙突の近くに持っていってもらいましょう。実験の実用性と美しさだけを使って、いやな部分はなしですませたいですから。
フラスコに入れた銅は溶けます。そして酸と水を変化させて、銅やなんかを含む青い液体に変えます。こいつにボルタ電池がどう作用してくれるかを見せてあげましょう。で、その間に、このボルタ電池がどんな力を持っているか、別の実験をやってみましょうか。
ここにあるのは、われわれにとっては水みたいな物質です――つまり、まだわたしたちの知らないものを含んでいます。水も、まだわれわれの知らないものを含んでいましたよね。さて、この塩の一種の溶液原注4-1を紙に垂らして、広げてやりましょう。それで電池をかけて、なにが起こるか見てみます。3、4種類くらいのことが起きるので、それを利用してやりましょう。
ではまず、このぬらした紙をブリキホイルの上に広げます。こうすると全部きれいにしておけるし、電気をかけるときにも便利なんですな。そしてこの溶液は、紙につけようとブリキに広げようと、その他わたしがいままで接触させたすべてのものに対して、まるで変化しません。だからみんな、あの道具との関連で使ってやっていいわけです。
でもまず、あの道具がちゃんと準備万端か確かめましょうね。さあ、あの電線です。こないだ見たのと同じ状態になってるかな? すぐにわかります。こうして電線をくっつけてみると、まだ電気は出てきません。それを伝えるもの――電極、という名前です――が止めてあるからです。でもアンダーソンさんが、いまの [と電線の端にとつぜん生じた火花をさす] で、電池の用意ができたという電報を送ってくれました。では、実験をはじめる前に、アンダーソンさんにまた、この背後の電池の電極をはずしといてもらいましょう。で、両極をプラチナの針金でつないでみます。このかなり長い電線に火をおこせれば、この先の実験でもだいじょうぶでしょう。さあ、こいつの力をごろうじろ。 [電線で両極をつなぐと、その間の電線は真っ赤になった。] 電力が電線を見事に通ってますねー。この電線はわざと細いものをつかって、こういう強力な力があるのをお見せできるようにしてます。で、これで電力があるのがわかったので、水の検討に移りましょうか。
ここにプラチナのかけらが2つあります。これを、この紙(さっきのブリキ板上のぬらした紙)にこうしてのっけて、と。するとなにも起きません。どけてみても、目に見える変化はなにもなくて、さっきのままですな。でも、こんどはなにが起きるでしょう。こうして二つの極を持ってきて、それをプラチナ板に片っぽだけくっつけてみます。どっちも、なにもしてくれません。どっちも、まったく無反応です。でも、同時にこうやってくっつけると、ほーら見てください [電極のそれぞれの下に、茶色い点があらわれる]。起きている結果を見てくださいよ。下の白いものから、何かを分解して茶色いものを取り出してるんですな! じゃあこれもまちがいないはず:こんなふうにして、電極の片っぽを紙の裏のブリキにつけて――おお、なんとも見事に紙に反応が出てくるじゃないですか。字も書けちゃえそうですね、やってみましょう――いわば電報、ですかな [講師、ここで電極の針金を片方使って、「juvenile」ということばを紙に書いて見せる]。ほらほら、実にきれいな結果が出てきます!
ごらんの通り、この溶液から、これまで知らなかった何かを引っ張り出したわけです。じゃあさっきのフラスコをアンダーソンさんからもらって、そいつをここから引っ張り出せるか見てやりましょう。こいつはご承知のとおり、こっちで他の実験をやっている間にできた、銅と硝酸でできた液体です。で、この実験はずいぶんあわててやっているので、ちょっと失敗するかもしれませんが、でも前もって用意しておくよりは、わたしがなにをやってるのか、ごらんにいれたかったんですよ。
さあ、どうなるでしょう。プラチナ板二つがこの道具の端っこです(というか、これからそうします)。そしてこれを、あの溶液と接触させましょう。ちょうどしばらく前に紙でやったのと同じです。わたしたちにしてみれば、溶液が紙の上だろうとびんの中だろうと、装置の電極両方をくっつければ同じことです。プラチナ板を片方だけ入れると、入ったときと同じようにきれいにピカピカの状態で出てきます [とプラチナ板を電池につながずに浸す]; でも電力をつないでそれをかけてやりますと [プラチナ板はバッテリーにつながれて、またもや溶液に浸される] 、このように [とプラチナ板の片方を見せて]、すぐに銅になっちゃったみたいに見えますね。まるで銅板です。そしてこっちは [ともう片方のプラチナ板を見せる] かなりぴかぴかのままです。この銅に覆われたやつを持ってきて、もう片方と取り替えてみましょう。すると銅は右手側から離れて、左側のに移ります。さっきは銅に覆われたものが、こんどはきれいになって、きれいだった方がこんどは銅におおわれています。したがって、この溶液に入れたのと同じ銅を、こうやってこの装置で取り出せるんだ、というのがわかりますね。
じゃあこの溶液はちょっと置いといて、この装置が水にはどんな力を持っているか見てみましょう。ここにプラチナ板が二枚あって、これを電池の両極にしたいと思います。で、この (C) は、水を分解してその構成を見せられるような形にしてある、ちょっとした容器ですな。この二つのコップ (A と B) には水銀を入れておきます。この水銀は、プラチナ板とつながった電線の端に触れるようになってます。容器 (C) に、ちょっと酸の入った水を注ぎましょう(酸を入れるのは、反応を起こす助けとしてだけで、酸そのものは何の変化も起こしません訳注:水だけでは電気が流れずに電気分解ができない。このため、ほかのものを加えて電気が通るようにするのだ。)。そして、この容器のてっぺんにつながっているのは、曲がったガラス管 (D) で、これは先日の、銃身を熱したときの実験と似てるでしょう。これがこっちのびん (F) の下にまで通ってきます。
で、これで装置の準備ができたので、これでなんとか水をつついてやりましょう。こないだの実験では、赤熱した管の中に水を送り込みました。こんどは、こっちの容器の中身に電気を通してやります。水が沸騰するかもしれませんね。沸騰したら、蒸気が出てくるでしょう。そしてご存じのように、蒸気は冷やすと凝集します。だからそれを見れば、水が沸騰したのかどうかはわかるでしょう。でも、沸騰しないで、何かほかの反応が出てくるかもしれませんよ。これは実験をやってみて確かめましょう。
さあ、電線の一つをこっち (A) につなげて、反対側をこっち (B) につないでやります。じきに何か変わったことが起きるかどうかがわかります。ほーら、派手にぐらぐら沸いているみたいですね。でも本当に沸騰してるんでしょうか? でてきてるものが蒸気かどうか、調べてやりましょう。もしこの水からあがってきているのが蒸気なら、じきにこっちのびん (F) が水蒸気でいっぱいになるはずです。でも、これは蒸気かな? まさか。だって、ずっとなにも変化しないままでしょう(訳注:水蒸気なら、いずれ水に戻って気体の部分がなくなるか、だいぶ減るはずだ、といいたいのだ。)。だからこれは蒸気じゃありえません。なにか変化しない気体なんです。なんでしょうか。水素かな? それとも何か別のもの? じゃあ調べてみましょう。水素なら、燃えるはずです。[訳注:ここで講師は、集まった気体に火をつけてみたはず。で、かなり大きな火と音が出たはず。]
はい、確かに燃えるものでした。でも、水素の燃え方とはちがってましたね。水素ならあんな音はしません。でも燃えたときの炎の色は、確かに水素っぽかったですね。でもあの気体は、空気がなくても燃えるんです。それをお見せするために、こっちの装置を用意しました。これでこの実験の特殊な部分がよくわかります。口の開いた容器ではなく、口の閉じた容器を持ってきましたよ(それにしてもこの電池はみごとなエネルギーですね、水銀まで沸騰して、すべて予定通り――なにもまちがった点はないです、実に見事に予定通りです)。で、さっきの気体が、なんだかわからないけれど、空気なしでも燃えて、その点で空気なしでは燃えないロウソクとはちがうのだということをお見せします。
やり方はこんな具合です。ここにガラスの容器 (G) があります。ここにプラチナ線が二本 [I, K] はまっていて、そこから電気を送り込めます。さて、この容器を空気ポンプにつないで、中の空気を吸い出しちゃいましょう。それでこっちに持ってきて、さっきのびんにつないでやって、水にボルタ電気を作用させて、水からつくりだした気体を、こっちの容器に移してやります――ああ、いまのところまでは言えますよね。さっきの実験でわたしたちは本当に、水をこの気体に変えたんだ、ということは言っていいですよね。水の状態を変えただけでなく、それを完全に本当にこの気体に変えて、この実験で分解された水はすべてこっちに来ているわけですね。
で、この容器 (G, H) をここんところ (H) にねじこんで、パイプがしっかりつながっているようにして、これでコック [H, H, H] を開きます。すると、[Fの] 水位を見てやると、気体がこっちに上がってきたのがわかりますね。さあコックを閉じましょう。容器にはさっきの気体がいっぱいです。で、この中にしっかりおさまったところで、こっちのライデンびん [L] から電気の火花を送り込んでやります。するとこの容器は、いまは透明でピカピカですが、これが曇るでしょう。音はしません。この容器は、爆発にも耐えられるくらい強いからです。[びんに火花が送り込まれて、爆発性の混合気体に点火。] いまのまばゆい光を見ましたか? もう一回この容器をびんにつなげて、コックを開くと、気体がまた入ってくるのがわかります。 [コックをまた開く。] さっきまであった気体は [と最初にびんに集められて、電気の火花で点火された気体をさす]、ごらんの通り消えてしまったわけですね。その気体があった場所が空っぽになったもので、こうやって新鮮な気体がまた入ってきたわけです。で、いまのをもう一回繰り返すと [とさっきの実験を繰り返す]、またこれは空っぽになります。こうして [Fの] 水位が上がるからわかりますね。いまの爆発の後では、容器は必ず空っぽになります。水が電池によって分解された結果できた、気体だか蒸気だかは、火花のおかげで爆発して、水に戻るからです。そしてだんだん、この上のほうの容器からは水滴が側面をちょろちょろ落ちてきて、下の部分にたまってきますよ。
ここでわたしたちは、水だけを相手にしていて、空気はまったく見ていません。ロウソクからの水は、空気の助けがあってできたものでした。でもこうやると、これは空気とぜんぜん関係なしに作れます。したがって水は、ロウソクが空気からとっているもう一つの物質を含んでいるはずです。そしてその物質は、水素と組合わさると、水になる、ということですな。
ついさっきあなたたちが見たのは、この電池の片っぽが銅をつかまえて、この青い溶液の入った容器からその銅を抜き出すところでした。それはこの電線によるものでしたね。そしてもし電池が、いま作っては取り出したみたいな金属溶液でこんなことができるなら、これで水の構成物質を分解して、それをこっちとあっちに入れられる、と考えてもよさそうなもんじゃないですか。じゃあそれぞれの極――つまり電池の金属の端っこ――をとって、こんな装置を使ってその極をずっと離してやったとき、水がどうなるかを見てやりましょう。一つをこっち (A) に、もう一つをあっち (B) につけます。そして、穴の空いた小さな棚板を使って、それをそれぞれの極につけます。そして電池の二つの極から出てくるものが、それぞれ分離した気体として出てくるようにしましょう。ほら、水は蒸気になったんじゃなくて、なんか気体になりましたよね。電線はいま、この水の入った容器と完全にきっちりつながっていて、ほーら、あぶくが出てきてますね。このあぶくを集めて、それがなんだか見てみましょう。こっちにガラスの筒 (O) がありますから、こいつに水をいっぱい入れて、 (A) の側にかぶせましょう。それと筒をもう一つ (H) 使って、これを反対側にかぶせます。というわけで、左右二つの装置になって、どっちの板からも気体が出てきてます。ほーらほら、右側のやつ (H) はすごい勢いで満杯になってきました。左のやつ (O) はそれほどの勢いじゃありません。ちょっとあぶくを逃がしちゃいましたけれど、でも反応はほとんど変わらずに続いていますね。で、筒の大きさがちょっとちがうのではっきりしないでしょうけれど、こっちの (H) には、こっちの (O) やつの倍の量の気体がたまってるんです。どっちの気体も無色です。どっちも凝集しないで水の上でじっとしてます。どこをとっても、どっちも同じですね――ああ、同じといってもつまり、\textbf{見かけ上は}、ということですけど。そしてここで、この物質をそれぞれ調べてみて、それがなんだかつきとめられるわけです。なかなかたっぷりあるので、実験するのも楽ですね。まずこっちのびん (H) を持ってきましょう。この中身が水素だ、というのがわかるはずですよ。
水素というのがどんな性質を持っていたか、考えてみてください――軽い気体で、さかさまのびんの中でじっとしていて、びんの口のところで淡い色の炎をあげて燃えましたよね。この気体が、そういう条件をすべて満たすかどうか、見ていてください。水素なら、こうやってびんをひっくり返しておけば、中にじっとしてるはずです。 [そこに火がつけられ、水素が燃えた。] じゃあ、もう片っぽのびんの中には、なにがあるんでしょうか。水素とこの気体とを混ぜたら、爆発する気体になるのは知ってますね。でもこいつはいったいなんでしょう。水のもう一つの構成物質で、したがって水素を燃えるようにした物質にちがいないものは? 容器に入れた水が、この二つの気体があわさってできていたことはわかっています。その片方は水素でした。では、実験前に水の中にあって、いまこうして独り立ちさせたものはなんでしょうか。この木ぎれに火をつけて、中に入れてみましょう。気体そのものは燃えないけれど、木ぎれは燃えます。 [講師、木の端に火をつけて、それを気体のびんに入れる。] ほーら、木の燃えかたが強力になりましたね。空気よりもずっとよく木を燃やしてくれます。そしてこれで、水の中に入っていた残り一つの物質、そしてロウソクが燃えて水ができたときの物質は、空気からとられたはずだというのがわかります。さあ、これをなんと呼びましょうか。A、B、Cとか? Oと呼びましょう――酸素(Oxygen)です。立派な、よくわかる――そんなひびきの名前ですな。というわけで、水の中にあって、そのかなりの部分を占める酸素というのは、こいつなわけです。
これでいままでの実験や研究が、もっとはっきりわかるようになってきましたね。というのも、こういうものを一、二回ほど検討すると、じきにロウソクがなぜ空気中で燃えるかがわかるようになるからです。わたしたちがこうやって水を分析すると――つまり、そのパーツを分離したというか電気分解してやると、水素が2に対して、それを燃やす物体が1出てきます。それを書いたのが次の図で、重さもいっしょに書いてあります。そしてこれで、酸素というのが水素にくらべるとずいぶん重たい物質なんだな、というのがわかります。この酸素が、水のもう一つの要素なんです。
物質 | 気体の量 | 重さ |
---|---|---|
酸素 | 33.3 | 88.9 |
水素 | 66.7 | 11.1 |
水 | – | 100.0 |
ここで、この酸素をたっぷり手に入れるにはどうしたらいいかをお話しておきましょうかね。水からは分離できるのをお見せしましたよね。酸素は、すぐに想像がつくでしょうが、空気の中にもあります。だって、それがなかったら、ロウソクが燃えて水ができるはずもないですから。酸素がなければそんなことは、絶対に不可能だし、科学的に不可能です。じゃあ酸素を空気から取り出しましょうか? はい、酸素を空気から取り出すための、えらく複雑で難しいやり方があるんですが、でももっといいやり方があります。マグネシウムの黒酸化物(black oxide of manganese)というものがあります。この、とっても見た目に真っ黒な鉱物なんですけれど、とても便利で、真っ赤に熱してやると酸素を出します。この鉄のびんにこいつを入れてやって、ここに管がつながってます。火も用意してあるし、アンダーソンさんにこのセットを火にかけてもらいましょう。なんせこの容器は鉄製だから、熱にも耐えられるんです。
こっちの塩は塩化カリウムというもので、漂白用とか、その他化学や医学用にいっぱい作られているものです。こいつをちょと、酸化マグネシウムに混ぜてやります(酸化銅や酸化鉄でもかまいません)そしてこいつを容器に入れてやると、赤熱までいかなくても、この混合物からは酸素が出てきます。ここではあまりつくるつもりはありません。実験に十分なだけあればいいからです。ただし、すぐにわかりますけれど、あまりケチると、気体の最初の部分は容器の中にもとからあった空気と混じってしまいます。だから気体の最初の部分は空気でうすまっているので、捨てなきゃなりません。こっちの場合には、酸素を得るのにふつうのアルコールランプで充分です。だから二種類のやりかたで酸素を作っているわけです。
ほんのちょっとの混合物から、実にたっぷり気体が出てきてますね。まずはそれを調べて、どんな性質を持っているか見てやりましょう。さて、こうやってわたしたちが作っている気体は、ごらんの通り、電池の実験でできたのと同じように透明で水に溶けず、目に見えるところではふつうの空気と同じ性質を持っています。(この最初のびんには、実験をはじめた時にでてきた酸素の最初の部分といっしょに、空気が入ってます。だからこれはちょっとどけてしまって、正常でまっとうな形で実験を続けることにしましょう)。そして水からボルタ電池を使って取り出した酸素では、木やワックスなんかを燃やす力が実にめざましかったから、ここでも同じ性質が見られると思っていいでしょう。やってみますね。こちらでは、細いロウソクが空気中で燃えています。そしてこちらは、この気体の中での燃焼です [と細いロウソクをびんの中におろす]。実に明るくて実に美しい燃えかたですね!
もっと先があります。こいつが重い気体なのがわかるでしょう。水素は気球みたいに、いやそれを包むものの重さにじゃまされなければ、気球よりはやく上昇していきました。水からは、水素は酸素の二倍もとれましたけれど、だからといって重量比で見たら、水の中に水素が酸素の二倍あるとは言えないのがすぐにわかるでしょう。片っぽは重いし、片っぽはとても軽い気体だからです。気体や空気の重さをはかる方法はあるんですよ。でも、そのやり方はここではしないで、それぞれの重さだけ教えてあげましょう。水素 1 リットルの重さは、たった 0.085 グラムです。同じ量の酸素は、約 1.35 グラム。ずいぶんと差があります。水素一立方メートルの重さは、64 グラム。酸素一立方メートルの重さは、1.02 キログラムです。そんな具合にしていけば、てんびん秤ではかれるくらいの重さになってくるでしょう。そうなって、何百の分銅分、何トンもの気体、なんてのも考えられるようになります。これはほとんどすぐに出てきますよ。
さて、酸素が燃焼を助けるというまさにこの性質についてですが、これは空気と比べてみましょう。ロウソクを一本用意しまして、とてもあらっぽく示してみましょう――結果もあらっぽくなります。はい、空気中で燃えるロウソクです。酸素の中ではどう燃えるでしょうか? こっちにこの気体の入ったびんがあります。これをこのロウソクにかぶせて、空気中の場合と活動を比べてみましょう。おやおや、ごらんなさいよ。ボルタ電池の極で見た光みたいですねえ。ものすごく反応が激しいでしょう。でもこれだけの反応を見せても、空気中でロウソクを燃やす以上のものは生み出されないんです。ロウソクを空気中で燃やしても、空気のかわりにこの気体を使っても、同じように水ができて、まったく同じ反応になるんです。
でも、この物質についてはわかっていることがありますから、もうちょっと厳密に見てやりましょう。ロウソクの産物のこの部分について、まともな一般性のある理解ができたと満足できるようにね。この物質が燃焼をいかに強力にサポートするか、実にすばらしいものです。たとえばここにランプがあります。単純ですが、いろんな目的のために作られているさまざまなランプのオリジナルだと言っていいかもしれません――灯台用とか、顕微鏡の照明とかね。で、こいつをもっと明るく燃えるようにしようと言われたら、あなたたちも思うでしょう。「ロウソクが酸素の中でもっとよく燃えるなら、ランプだってそうなるんじゃないかな?」はい、まさにその通り。アンダーソンさんに、酸素だめにつながった管をもってきてもらいますよ。で、それをこの炎にかけてやりましょう。この炎はわざと、あまりよく燃えないようにしておきますね。さあ酸素がきました。すっごい燃えかたですね! でも酸素を止めると、ランプはどうなるでしょう? [酸素の流れが止められると、ランプは前の暗い状態に戻った。] 酸素を使うと、燃焼が加速される――すごいですね! でも、酸素は水素や炭素やロウソクの燃焼に影響するだけじゃありません。ふつうの燃焼すべてに影響するんです。たとえば鉄に関してそれを見てやりましょう。もうふつうの空気の中で、鉄が多少燃えるのを見ましたね。ここに酸素の入ったびんがあります。こっちは鉄の針金です。でも、この針金が、わたしの手首くらいの鉄棒でも同じように燃えます。まずは鉄に、木ぎれをくっつけましょう。そして木に火をつけて、それを鉄ごとこのびんに入れてみます。さあ、木が燃え上がっています。酸素の中での木らしく、よく燃えますね。でもそれがやがて鉄のほうに燃え移ります。鉄はいまや明るく燃えています。このままずっと燃え続けます。酸素を供給し続ける限り、鉄はいつまでも燃え続けます。鉄がなくなるまで。
じゃあこれはこっちに置いといて、別の物質をもってきましょう。でも実験はほどほどにしましょう。もっと時間があったらいろいろお目にかけたい例はあるんですが、それだけの余裕がありません。これは硫黄のかけらです。硫黄が空気中でどう燃えるかは知っていますね。では、酸素に入れてみましょう。空気中で燃えるものは、酸素の中だとずっと強力に燃えます。だとすると、空気でものが燃えるというのも、すべてはこの気体があるせいなのかな、と考えるようになるでしょう。硫黄はいま、酸素の中で静かに燃えていますけれど、でもふつうの空気の中で燃えたときと、こうやって燃えているときとでは、こっちのほうが反応がずっと活発で強力なのは、絶対にまちがえようがないですね。
さあ、こんどは燐という物質の燃焼をお見せしましょう。これは、みんなが家に帰ってやるよりここでやってみせたほうがいい実験です。これはとても燃えやすい物質です。空気中でこんなに燃えやすいなら、酸素中ではどうなると思いますか? これをめいっぱいお見せすると、この装置自体がふっとびかねませんので、控えめにやってみますね。これでもびんが割れたりするかもしれませんが、軽率にものを壊したりしたくないですから。さあ、空気中ではこんな具合に燃えます。でも、酸素に入れると、実にまばゆい光ですな! [火のついた燐を、酸素のびんに入れる。] 固体の粒子が飛び散っているのが見えますね、これが燃焼をこんなにまばゆく輝かせてるんです。
さていまのところ、酸素の力を見てきました。すごい燃焼をほかの物質に引き起こします。こんどはしばらく、こいつが水素に対してどうなるかを見てやらなくてはなりません。水から出てきた酸素と水素を混ぜて燃やすと、ちょっとした爆発が起きました。さらに酸素と水素をいっしょに吹き出させて火をつけたら、光はほとんどなかったけれど、かなりの熱が出たのも覚えているでしょう。では、水の中にあるのと同じ割合で酸素と水素を混ぜて、火をつけましょう。こっちの容器には、酸素が1に対して水素が2入ってます。あのボルタ電池で得られたのとまったく同じ性質の混合物です。こいつを一挙に燃やすには、量がちょっとおおすぎます。だからシャボン玉をつくって、そのシャボン玉を燃やしてみましょう。酸素が水素の燃焼をどう助けるか、これでわかるでしょう。まずは、シャボン玉ができるかどうか見てやりましょう。はい、気体が出てきます [と混合気体をたばこ用のパイプ経由で、石けん水につける]。はい、シャボン玉ができました。これを手にのせましょう。変なことするな、と思うでしょうけれど、騒音や音なんかあまり信用しないで、ちゃんとした事実だけを信用すべきだというのを示すためです。 [手のひらのシャボン玉を爆発させる。] パイプの端についたままであぶくに火をつけるのは怖いんです。爆発がそのままびんのほうに伝わって、こいつが粉々にふっとびます。というわけでこの酸素が水素と結合したわけです。この現象からもわかるし、音からその反応が実に素早かったのもわかります。そして酸素の力がすべて利用されて、水素の性質を中和してしまったわけですな。
というわけで、これまでお話してきたことから、酸素と空気に関して水について一通りわかったと思います。なぜカリウムのかけらは水を分解するのか? 水の中に酸素があるからです。カリウムを水に入れたら、なにが解放されますか? いまもう一回やってみましょう。水素が出てきますね。そしてその水素が燃えます。でもカリウムそのものは酸素と結びつきます。そしてこのカリウムのかけらは、水を分解するとき――その水というのはロウソクが燃えてできるものだ、と言っていいでしょう――ロウソクが空気からとってきた酸素を、水からとりあげます。それで水素が解放されるわけです。そして氷を持ってきて、その上にカリウムをのっけても、酸素と水素との結びつきは同じだから、氷はまちがいなくカリウムを燃やします。今日はそれをお目にかけましょうね、そうすればこういうことについての考え方も広まるし、それに状況に応じて、結果がえらくちがってくるというのもお見せしたいですからね。ほら、こうしてカリウムを氷にのっけると、火山みたいなふるまいで反応します。
こういう変なふるまいを指摘したので、次回お目にかかるときのわたしの仕事としては、こういう余計で変な反応というのは、わたしたちが絶対にお目にかからないものだ――つまり、こういう変な危険な反応は、ロウソクを燃やしているときには起きないし、道のガス灯でも起きないし、暖炉の燃料が燃えても起きない、ということを示しましょう。ただしそれは、われわれを導くための自然の法則の中にわたしたちがいる限り、ですが。
註:
- 原注 4-1:
- アセテートに鉛を溶かした溶液にボルタ電流をかけると、マイナス極には鉛ができて、プラス極には、茶色い過酸化鉛ができる。硝酸銀溶液を同じようにすると、マイナス極には銀ができて、プラス極には過酸化銀ができる。
第 5 章 空中の酸素――大気の性質――二酸化炭素
さて、ロウソクからとれた水で、水素と酸素ができるのを見てきました。水素はろうそくからくるもので、酸素は空気からくるらしい、というのもわかりました。でもそうなったら、当然こういう疑問が出ていいはずですね:「どうして空気と酸素とで、ロウソクの燃え方がちがうの?」ロウソクに酸素のびんをかぶせたとき、空気中とは燃焼がぜんぜんちがったのを覚えていますね。どうしてそんなことになるんでしょうか。これはとってもだいじな疑問で、これからなんとかしてこの点をわかってもらうようにしましょう。大気の性質と密接に関わっていて、わたしたちにとってもすごくだいじなんです。
酸素かどうかを調べるなら、ものを燃やしてみる以外にいくつか試す方法があります。酸素の中と空気の中で、ロウソクの燃え方を見てみましたね。酸素と空気とで、燐の燃え方や鉄粉の燃え方がちがうのも見ましたね。でも、ほかにも試す方法があります。いくつかお見せして、みなさんの判断力と経験がもっと高まるようにしましょう。ここに、酸素の入った容器があります。酸素があることを示してみましょう。ちょっとした火花を、この酸素に入れると、前回お目にかかったときに得た経験から、なにが起きるかわかりますね――この火花をびんに入れると、酸素があるかないかがわかります。ほーら! 燃焼で酸素があるのを証明したわけです。
で、こんどは別のやりかたで酸素があるか試してみましょう。これはとてもおもしろくて便利なやりかたです。ここに気体がつまったびんが2つあります。間に板がはさんであって、気体が混じらないようにしてあります。この板をどけると、気体が混じりだします。「それがどうしたの?」とみなさんは言います。「いっしょにしても、ロウソクみたいな燃焼は起きないでしょう」とね。でも、このもう一つの物質との反応ぶりで、酸素があるのがこうやってわかるんです。原注5-1実にきれいな色の気体ができるでしょう。これで、酸素があるな、というのがわかるんです。同じように、この試験用気体をふつうの空気とまぜて実験してみましょう。こちらには、空気の入ったびんがあります――ロウソクが燃えるような空気です――そしてこっちは、試験用の気体が入ったびんです。こいつを水の上で混ぜてみますと、結果はごらんのとおり。さっきとまったく同じ反応が見られます。これで空気の中に酸素があることが証明されました。
でも、それはいいとして、どうしてロウソクは、空気中では酸素の中ほどよく燃えないのでしょうか? いますぐそれを考えてみましょう。ここにびんが二つあります。どちらも同じ高さまで気体が入っていて、見たところはどっちも同じです。これらのびんには、それぞれ酸素と空気を入れたんですけれど、いまのところどっちのびんにどっちが入っているかはわかりません。でもここに、試験用の気体があります。こいつをこの2つのびんに使ってみて、この気体の赤くなりかたに何かちがいがあるかどうか、見てやりましょう。さあ、この試験気体をびんの一つに入れてみます。どうなるでしょう。赤くなりますね。つまり酸素があるってことです。では、もう一つのびんで試して見ましょう。でもこっちは、前のやつほど赤くないです。そしてさらに、ちょっとおもしろいことが起きます。この気体2つをとって、水を入れてよく振ると、この赤い気体が吸収されます。そしてこの試験気体をもっと入れてまた振ると、どんどん吸収されていきます。こうやって、赤くする酸素が完全になくなるまでこれを続けましょう。空気が入っても変化しませんが、水を入れた瞬間に、赤い気体は消えて、これをずっと続けて、試験気体をどんどん入れていきましょう。すると、空気と酸素で赤くなった物体を赤くしない、なにかが後に残ります。
こりゃどういうことでしょう? すぐにお見せしますが、空気には酸素の他に、ここに残った何かが存在しているからなんです。もうちょっと空気をびんに入れてみましょう。これが赤くなったら、赤くする気体はまだ存在するということです。だから気体が赤くならないのは、別にこの物質がなくなったからではない、ということになりますね。
これでわたしが今からなにをいうか、うすうす見当がついてきたでしょう。燐をびんの中で燃やして、燐と空気中の酸素とがつくった煙が凝集したとき、燃えていない気体がかなり残りました。この赤い気体が手をつけない部分を残したように。あのとき、燐が手をつけられずに残ったのも、この赤くなる気体が手をつけられなかったのも、同じものです。そしてこれは酸素ではなく、それでいながら大気中にあるんです。
というわけで、こういうやり方で、空気を構成する物質二つをこうやって選り分けられます――ロウソクや燐やその他もろもろを燃やす酸素と、そういうものを燃やさないこのもう一つの物質――窒素です。この空気のもう片方の部分は割合がずっと大きくて、 調べてみると、とても興味深い物体です。すさまじく興味深いですね、でもあなたたちは、つまらないよ、と言うかもしれない。確かにある意味ではつまらないです。派手に燃えたりしてくれませんから。ロウソクで試してみても、水素みたいに燃えないし、酸素みたいにロウソクのほうを燃やしたりもしません。どうやってみても、燃えもしなけりゃ燃やしもしない。火も起こさない。ロウソクを燃やすこともない。それどころか、燃焼をすべて止めてしまいます。こいつの中で、ふつうのままだと燃えるものはなにもありません。匂いもない。ツンともしない。水にも溶けない。酸でもアルカリでもない。われわれの器官に対しても、まったく何の影響も与えません。だからみなさん、こうおっしゃるかもしれません。「そんなの、なんでもないよ。化学的な関心を向ける価値もない。そんなものが空気中でなにをしてるんだろう?」
しかぁし! そこで観察される原理から、実にすばらしく見事な結果がわかってくるんですな。もし窒素のかわりに、というか窒素と酸素のかわりに、空気が純水酸素だったとしましょう。どうなります? 酸素のびんの中で鉄に火をつけると、全部燃え尽きるのはよくわかりましんたね。鉄のストーブの中で火をたいたら、空気が酸素なら炉はどうなっちゃうか考えてみてください。ストーブのほうが石炭よりも派手に燃え上がっちゃいます。ストーブそのもののほうが、その中で燃やす石炭よりもずっとよく燃えるからです(訳注:ここでよい子のみなさんは、当然疑問を持たなきゃいけない。もし鉄のほうがよく燃えるのなら、どうして空気中で石炭は燃えるのに鉄は燃えないの? わかるかな? 「よく燃える」ってどういう意味だろう?)。蒸気機関車の中に火を入れるなんて、燃料でできた筒型容器の中に火を入れるのと同じになります。窒素はそれを抑えて、火が控えめで使い物になるようにしてくれます。そしてそれと同時にこれだけ量があるので、ごらんのようにロウソクから出てくる煙を運び去ってくれて、空気中一帯にまき散らして、それを人間にとって偉大ですばらしい目的を果たしてくれるような場所に運んでいってくれるんです。たとえば植物の維持とかね。一見すると「ああ、これはまるっきりつまらないものだよ」と思うかもしれませんが。この窒素は、ふつうの状態では不活性です、最強の電気力でも使わないと、窒素は大気中のほかの元素や、その他まわりにある元素と直接結びついたりしません。これはまったく不活性で、つまりは安全な物質だと言っていいでしょう。
が、その結果をお見せする前に、まず空気そのものについてお話ししときましょう。大気中の空気の構成を、百分率でこの表に示しておきました:
物質 | 体積 | 重さ |
---|---|---|
酸素 | 20 | 22.3 |
窒素 | 80 | 77.7 |
合計 | 100 | 100.0 |
これは酸素と窒素の量について、大気のきちんとした分析です。この分析によると、体積で見たら大気5リットルには酸素1リットルしか含まれず、窒素は4リットルというか4単位分含まれることになります。それが空気の分析です。窒素がそれだけあって酸素を薄めて、ロウソクにしかるべき燃料が伝わるようにして、肺が健康かつ安全に呼吸できる大気ができているわけです。大気が、ロウソクの炎が燃えるのにちょうどよくしておくのと、わたしたちが呼吸できるよう酸素をちゃんとしておくのとは、同じくらい大事なんですな。
でもこの大気についてです。まず、この気体の重さをお話ししましょう。窒素1リットルは1.18グラムの重さがあります。一立方メートルだと0.89キログラム。窒素の重さはそのくらいです。酸素のほうが重い。1リットルが1.35グラム、1立方メートルだと1.02キログラム。空気1リットルは1.22グラムで、一立方メートルは0.92キログラムになります。
何回かみなさんからきかれたことで、聞いてくれてわたしとしてはとてもうれしいのですが「気体の重さってどうやってはかるの?」というのがあります。お見せしましょう。単純だし、とても簡単にできます。ここにてんびんがあって、銅のびんがあります。できるだけ軽く作ってあって、しかもしかるべき強さを持っていて、ろくろできれいに仕上げてあって、完全に気密になって、止め栓がついててあけたり閉じたりできます。今はあけてあって、だからこのびんは空気がいっぱい入っています。
で、てんびんをうまく調整して、びんがこの状態だと、むこうの重りとつりあうようになってます。さて、ここにポンプがあります。こいつでこのびんに空気をつめこんでやりましょう。こうやって、ポンプで空気をはかって、ポンプ何押しか分の空気を押し込んでやりましょう。[ポンプが20回押されてその分の空気が入る]。栓を閉じて、てんびんにのせましょう。びんが下がりますね。さっきよりずっと重くなったわけです。何の重みでしょうか? ポンプで押し込んだ空気の重さですね。空気の体積は同じだけれど、無理に押し込んだから、同じ体積でもずっと重い空気になっているわけです。そしてこの空気がどれだけの重さか、きちんと見当がつくように、こっちではびんを水でいっぱいにしてみました。あの銅の容器を開けて中身をこっちのびんに移して、空気をもとの状態に戻させてやりましょう。それにはこうやって、きつくねじこんでやって、栓をねじるだけで、するとほら、ごらんのとおり、びんに押し込んだポンプ20押し分の空気の体積です。そしてこれまでまちがいなくやってきたのを確認するために、びんをまたてんびんに戻してやって、もとの重さでつりあうか確認しましょう。それがつりあえば、きちんと実験をできたのがわかるはずです。ほら、つりあいました。だからああいうふうにして押し込まれた、追加の空気の重さがわかるわけです。そしてここから、空気の1立方メートルは0.92キロだというのがわかるんです。
でもこんなわずかな実験では、この自称の文字通りの真実すべてをとても伝え切れません。これがもっと大量になるとどんなに積み上がるか、すばらしいものがあります。この体積の空気(1リットル)は1.22グラムです。じゃああの上のほうにある箱の中身の重さはどのくらいだと思いますか? あの箱の中の空気は1キログラムあります――丸ごと1キロ。そしてこの部屋の中の空気全部の重さも計算しました。ほとんど想像もつかないでしょうけれど、1トン以上あるんです。重さは実に急速に増えて、そして大気の存在は実に重要で、その中の酸素や窒素、さらにはあちこちものを運ぶという役割、さらには悪い蒸気を運んで、害をなさずに役にたつような場所まで運んでいってくれるというのは、実にだいじなんです。
空気の重さについて、いまちょっと説明したついでに、それがどういう影響をもたらすかもちょっと話しましょうか。みなさんこの話をきく権利があります。そうでないと、理解が十分になりませんから。こういう実験は覚えていますか? 見たことあります? 仮にさっきびんに空気を詰め込むのに使ったみたいなポンプを使って、それをなんとかうまいこと、わたしの手に使ってみましょう。この手は空気の中を軽々と動き回って、ほとんどなにも感じません。空気にそれなりの抵抗があるんだというのを確信するには、思いっきり手を動かしてみてやっとどうにかなるくらいです。でもここに手を置きますと [とポンプの口に手を置いて、ポンプで吸い出して見せた] さあどうなるでしょう。どうして手がここにくっついていて、そのままポンプを持ち上げたりできるんでしょうか? そしてほら! 手を引き離すのもむずかしいのはどうしてでしょう? なぜかな? それは空気の重さ――上にある空気の重さのせいなんです。
別の実験をしてみましょう。こっちのほうがもっとわかりやすいかもしれません。膜がこのコップの口のところに張ってあります。こいつの下の空気を吸い出すと、別の形で影響がわかるでしょう。いま、てっぺんはかなり平らですけど、でもポンプをほーんのちょっとだけ動かしてみましょう。さあどうなるでしょうか。へこみましたね。内側にくぼんでます。さあ、膜はどんどんへこんできますよ。いずれたぶん、へこみすぎて、上から押してくる空気の力で破けちゃうでしょう [膜はついに、大きな音をたてて破れる]。さあいまのは完全に、上から押してくる空気の重さのせいで起きたんですね。
なぜそうなるのか、簡単にわかるはずです。空気の中で積み上がっている分子は、ここにある立方体と同じで、それぞれお互いの上にのっかっているわけです。この上の4つが下の一つに乗っかっているのはすぐわかりますね。下の一つをとったら、他のが全部一つ下に下がります。空気でも同じことです。上の空気は下の空気にささえられて、下から空気がポンプでとられちゃうと、わたしが手をポンプの上においたり、膜の例で見たりしたような変化が起きるわけです(訳注:このファラデーせんせいの説明をどう思う? もしそうなら、コップを横にしたらどうなるだろう。)。もっといい例を見せましょう。このびんのてっぺんに、インドゴムの膜をゆわえました。これでびんの中から空気をとってみましょう。そして見ていると、インドゴムは上の空気と下の空気の間の仕切りになるわけですな――ごらんの通り、ポンプを動かすと、圧力が見えてきます。さあ、どこに行くかみてください。このびんの中には、わたしがこうして手を入れることもできます。でも、結果は上の空気の偉大で強力な働きで起きているんです。不思議な現象が見事に示されてますね!
今日、わたしが終わったらあなたたちもこいつを引っ張ってみてくださいな。小さな道具で、空っぽのしんちゅう製半球が、ぴったりあわさるようになっています。そしてこいつには管と栓がついていて、ここから中の空気を吸い出せるようになってます。そして中に空気があれば、こんなに簡単にこいつを引き離せるんですが、こうやってだんだん空気をぬいていくと、あなたたち二人がかりでも、だれもこいつを引き離せないのがわかりますよ。空気がぬかれると、この容器の表面一平方センチごとに、重さ1キロかそこらを支える勘定になります。この大気の圧力に勝てるかどうか、みんな自分の強さをすぐに試せますよ。
はい、ここにまたいいものがあります――男の子のおもちゃの吸盤ですが、科学者の手でもっと洗練してあります。われわれ子供は、おもちゃをもってきてそれを科学にしてみる権利がじゅうぶんにあるし、同じようにこんどは科学をもってきてそれをおもちゃにしてもいいんです。ここの吸盤は、インドゴムでできてます。こうしてテーブルにくっつけると、すぐにくっつくのがわかります。なぜくっつくんでしょう。あちこちすべらせることはできます。それなのに、引っ張り上げようとすると、いっしょにテーブルがくっついてきそうですね。あちこちすべらせれても、はずそうと思ったらテーブルの端までもってこないとダメです。こいつが押さえ込まれているのは、上の空気の圧力だけのおかげです。いくつかあるので、二つとって押しつけてみると、ほーらこんなにしっかりくっつきます。そしてもちろん、もともと考えられた通りに使ってもいいですね。窓にくっつけたり、壁にくっつけたりして、一晩ほど張り付いたままになって、そこに好きなものをかけておけるわけです。
でも、きみたち男の子には、家でやれる実験を見せてあげたほうがいいですね。そこで大気の圧力を示すすてきな実験です。ここに水の入ったタンブラーがあります。もしこのタンブラーをひっくり返して、それでも水がこぼれないようにして、しかも手で押さえたりしないで、単に大気圧を使うだけでそれをやってごらんといったら? できるかな? ワイングラスを持ってきて、水を半分でもいっぱいでも入れましょう。そしててっぺんに平たいカードをのせます。ひっくり返して、カードと水がどうなるか見てください。水のせいで空気は入れません。ふちの毛管現象のおかげで、空気は出たままです。
以上で、たぶん空気が物質であるということについて、正しい認識をしてもらえたと思います。そして、この箱に空気が1ポンド入っているとか、この部屋には1トン以上の空気があると言えば、空気というのがかなりのものだ、と思うようになりはじめてくれるんじゃないですかね。抵抗があるんだということを納得してもらうのに、もう一つ実験をしてみましょう。空気銃のすばらしい実験があります。実に簡単に見事に作れるのは知ってますよね。まずはパイプとか管とか、なんでもいいからその手のものを用意して、それにたとえばジャガイモとかリンゴとかのかけらを持ってきて、それをひとかけら切って、管の端に押し込みます。そしてもう一切れもってきて押し込みます。これで管の中の空気は完全に閉じこめられて、ねらいどおりになりました。そしてこれで、どんなに力を入れても、この二つのかけらをくっつけられません。絶対無理です。ある程度まで空気を押すことはできますが、もっと押していくと、もう片方にくっつくずっと以前に、閉じこめられた空気が最初のやつを、火薬みたいな勢いで無理矢理押し出します。というのも、火薬はある程度、ここで見たようなふるまいに基づいているからなんです。
こないだとても気に入った実験を見かけたんですが、ここでの目的にぴったりじゃないかと思います(この実験を始める前に、舌を四、五分休めておくべきでしたね。この実験の成功はわたしの肺にかかってるもんで)。うまく空気を使ってやると、この卵をこっちのコップから息の力だけで吹き出して、もう一つに移すことができるはずです。でも失敗しても、それはまともな目的のためだし、うまくいくとはお約束しませんよ。実験が成功するにはちょっとしゃべりすぎてますから。
[ここで講師が実験を試してみて、卵を一つのコップからもう一つに吹き飛ばすのに成功した。]ごらんのとおり、わたしが吹いた空気は下に行って、卵とコップの間に入ります。そして卵の下で破裂して、だから重たいものも持ち上がるんです。卵は空気が持ち上げるにはなかなか重たいものですよね。もしこの実験をしてみたければ、まず卵をかなり固ゆでにしなきゃダメですよ。そうすれば、あまり気を遣わないでも、安全にこれをコップからコップへ吹き飛ばせます。
空気の重さという性質については、もう十分に話をしてきたんですが、もう一つ言っておきたいことがあります。この空気銃で、二つ目のジャガイモを1センチか1.5センチくらいまで近づけると、やっと最初のやつが動き始めましたね。これは空気の弾力のおかげです。ちょうど、銅のびんに空気の分子をポンプで押し込んだのと同じことです。さてこれは、いまいったように、空気の弾性というすばらしい性質のおかげです。これをうまくお見せしたいと思います。空気を封じ込めるものならなんでもいいから用意します。たとえばこの膜は、伸び縮みして空気の弾力性を示してくれます。そしてこの袋に、空気を少し閉じこめます。それからそのまわりの空気を取り除いてみましょう。さっきの例で空気を入れたのとは逆です――圧力をのぞくと、ほら、ごらんのようにどんどんふくれていきます。そしてこの広口びんいっぱいにまで広がります。これで空気の弾性というすばらしい性質や、そのすさまじい膨張性がわかりますね。これはものづくりを効率よく行うにあたって、きわめて重要になる性質なんです。
さあ、これからわれわれの主題のとてもだいじなところに向かいます。ロウソクが燃えているのを調べて、そこからいろんな産物が出てくるのを発見しましたね。ご承知のとおりその産物の中には、すすと、水と、そしてわたしたちがまだ調べていない、別の何かがあります。水は集めましたが、それ以外のものは空気中に逃げ出させてきました。こんどは、その別の産物のほうをいくつか検討しましょう。
こういう場合に、みなさんの助けとなるような実験があります。まずロウソクをここにおいて、そのてっぺんに煙突を、こんなふうにのっけてみましょう。ロウソクは燃え続けると思いますよね。てっぺんと底に空気の出入り口が開いてますから。まず、湿気が出てきているのが見えます――これはわかりますよね。空気がロウソクの水素と反応して、水が出てきているんです。でもそれ以外に、てっぺんから出てきているものがあります。湿気ではありません――水じゃないです――凝集したりしません。それなのにとても独特の性質を持っています。煙突のてっぺんから出てきている空気は、そこに火を近づけるとそれを吹き消してしまいそうです。そしてこの空気の流れの真正面に火を持ってくると、完全に吹き消されます。だってそんなのあたりまえだよ、と言うかもしれませんね。そうなるはずだと思ってくれるものと、わたしは思っています。窒素はものを燃やせませんから、だから当然ロウソクを消しちゃうだろう、とね。でも、ここには窒素しかないんでしょうか? ここでちょっと先回りをしなきゃなりません――つまり、いまの疑問を確かめるためにどんな方法が使えるか、こういう気体を調べるにはどんな方法があるか、わたしの知識を使ってみなさんに教えておかなきゃいけません。空っぽのびんを用意しましょう――ここにあります――そしてこいつをロウソクの上にかざすと、ロウソクの燃焼でできたものが、この上のびんに送り込まれます。そしてじきに、このびんの中にあるものが、ロウソクの燃焼にとって都合の悪い気体というだけでなく、別の性質を持っていることがわかりますよ。
ちょっと消石灰をもってきて、ふつうの水をまぜてやります。ごくふつうの水で十分。しばらくかきまぜて、漏斗に濾紙を入れてその上から注いでやります。するとすぐに、したのびんに透明な水がたまります。こんなふうにですね。この液体は別のびんにたくさん作ってあるんですが、でもみんなの目の前でつくった石灰水を使いたいですね。そうすれば使い方もわかるし。このきれいに透明な石灰水を持ってきて、ロウソクからの空気を集めたびんに注ぐと、変化が起きたのがわかりますね。水がずいぶんミルクっぽくなったのがわかりますか? これはですね、空気だけでは起きないことに注意してください。これは空気の入ったびんです。ここに石灰水を入れても、酸素も窒素も、その他空気の中にあるものはすべて、石灰水を変化を変化させません。完全に透明なままで、これだけの石灰水をこれだけの空気とどんなに振ってみても、そのままでは何の変化も起こしません。でもこっちのびんに石灰水を入れて、ロウソクの産物を石灰水とふれあわせると、じきにミルクっぽくなってきます。ここにあるチョークは、石灰水をつくる時に使った石灰と、ロウソクから出てきたなにか――われわれがいま探している別の産物――との結合でできているんです。今日お話したいのもこの物質についてです。
この物質は、その反応でわれわれにもわかるようになりました。これは、石灰水が酸素や窒素とで見せる反応でもないし、水そのものとの反応でもありません。ロウソクから出てきた、なにか新しいものです。そしてこの石灰水とロウソクからの蒸気でできた白い粉は、白塗りやチョークとずいぶん似ているようだし、実際に試してみると、ずばり白塗りやチョークと同じ物質なのがわかります。というわけで、ここでわれわれとしてはこの実験のいろんな面を考えてみて、このチョークができるまでをいろんな原因にまでさかのぼって、ロウソクの燃焼について本当の知識が得られるようにしなければいけません。――つまりこのロウソクから出てくる物質は、チョークをレトルトに入れてちょっとぬらして真っ赤に熱したときに出てくるものとまったく同じなんです。出てきたものは、ロウソクから出てくるのとまったく同じ物質です。
でも、この物質を得るのにもっといい方法があります。しかも大量に作れるので、その性質を見極めるのも楽になります。この物質がきわめて大量にあるのは、多くの場合、すごく意外な場所です。石灰石はすべて、ロウソクから出てくるこの気体を大量に含んでいます。この物質は、われわれが炭酸ガス(二酸化炭素)と呼んでいるものです。チョークや貝殻、サンゴはこの不思議な気体を大量に含んでいます。こういう石に、この気体が固定されているんです。このためブラック博士はこれを「固定された空気」と呼びました――こういう大理石やチョークみたいなものの中にこの気体が固定されているからです――固定された空気というのは、空気としての性質はなくなって、固体の状態となってるからですね。
こちらには塩酸少々が入ったびんがあります。こっちにはロウソク。これをびんに入れても、ふつうの空気があることがわかるだけです。底まで純粋な空気がいっぱいに入っています。びんの中はそれだけです。
さてここにある物質――大理石原注5-2、それもとても美しい上等の大理石です――この大理石のかけらをびんに入れると、派手にブクブク泡立ちはじめているのがわかりますね。でもこいつは、水蒸気じゃありません。出てきているのは気体です。そしてロウソクでびんの中を探ってみると、燃えているロウソクの上の煙突から出てきた空気を使ったのと同じ作用が見られるはずです。そしてこの方法のほうが、炭酸ガス(二酸化炭素)をもっとたっぷり得られるんです。
さらにこの物質は、大理石の中に入っているだけではないというのがわかります。こっちの容器には、どこにでもある白いチョークを入れてあります。チョークを水で洗って、粗い粒子を除いて、左官屋さんが白塗り用の材料に使うものです――そしてこっちには強い硫酸があります。この実験をするには、この酸を使わなきゃならないです(というのも、この酸を石灰石にかけると、出てくる物質は水に溶けないんですが、塩酸を使うと出てくるものは水に溶けて、水が濃くならないんです)。そしてこの実験をするのに、わたしがなぜこういう装置を使うのか、みなさんも考えてみてくださいよ。わたしがこうして大規模にやっているものを、みなさんにも小規模に再現できるようにするためです。こちらでも、まったく同じふるまいが見られます。そしてこの大きなびんから、空気中でのロウソクの燃焼で得られた気体と、性質も特徴もまったく同じ炭酸ガスを得ることができます。そして炭酸ガスのつくりかたがまるでちがっていても、最終的にできたものを見ると、こっちのやりかたでもあっちのやりかたでもまったく同じなんです。
では、この気体に関する次の実験に進みましょう。これはどんな性質を持っているでしょうか? ここに炭酸ガスでいっぱいの容器があるので、ほかの気体でやったのと同じように試していきましょう――燃焼です。ごらんのとおり、これは燃えないし、ほかのものが燃える助けにもなりません。またこれまでわかるように、あまり水にも溶けません。こうやって水の上で簡単に集められるからです。さらには、石灰水に触れると白くなるという効果があるのを知っていますね。そしてそうやって白くなると、これは石灰や石灰岩の炭酸化合物の一部となるんです。
次にお見せすべきなのは、これが実は多少は水にとけるということで、その意味で酸素や窒素とはちがっているということです。この道具を使うと、炭酸ガスを水にとかすことができます。この装置の下の方には大理石と酸があります。上の部分には冷たい水を入れておきます。このバルブのおかげで、気体がこっちからあっちに移動できるようになっています。では動かしてみましょう。気体のあぶくがぶくぶく水の中を上がっていきますね。これは一晩中こうしていたので、この物質が水にとけたかどうか、そろそろわかるでしょう。コップを持ってきてちょっとこの水を出してみると、味見するとちょっと酸っぱいです。炭酸が入っているんですね。そして石灰水を混ぜてやると、炭酸があるのを証明してくれます。この水は石灰水を白く濁らせるので、これで炭酸が入っているのが証明されました。
さらにこいつはとても重たい気体なんです。空気より重い。それぞれの重さをこの表の下の方に書いておきました。比較のために、これまで見てきたほかの空気の重さも書いてあります。
気体 | 1リットル | 1立方メートル |
---|---|---|
水素 | 0.085グラム | 0.064キロ |
酸素 | 1.35グラム | 1.02キロ |
窒素 | 1.18グラム | 0.89キロ |
空気 | 1.22グラム | 0.92キロ |
炭酸ガス | 1.86グラム | 1.45キロ |
炭酸ガス1リットルは1.86グラム、ほとんど2グラムの重さで、1立方メートルだと1.45キロにもなります。これが重たい気体なのは、いろんな実験からもわかります。空気しか入っていないコップがあります。そしてこっちの炭酸ガスが入った容器から、この気体をちょっと注いでやりましょう――さあ、少しでも炭酸ガスが入ったかなぁ。見てもわかりませんね。でもこうすればわかります [とロウソクを取り出す]。はい、確かにあります。ごらんの通りです。そして石灰水でこれを試したければ、その試験方法でもわかりますね。この小さなバケツを使って、この炭酸ガスの井戸におろしてやりましょう――いや、実際に炭酸ガスのつまった井戸はたくさんあるんです――さてさて、もし炭酸ガスが入っていればそろそろバケツが届いたはずで、バケツにも炭酸ガスが入っているでしょう。それをロウソクで調べてやりましょう。ほーら、確かにあります。ごらんの通り、炭酸ガスでいっぱいですね。
こいつの重さを示す別の方法があります。てんびんの片方に、びんをぶら下げてあります――てんびんはいまはつりあっています。でも、いまは空気が入っているこっちの片方に、炭酸ガス(二酸化炭素)を流し込んでみましょう。するとすぐに傾くのがわかります。わたしが流し込んだ炭酸ガス(二酸化炭素)のせいです。そしてロウソクに火をつけてこのびんを調べてみると、炭酸ガス(二酸化炭素)が中にあって、ロウソクが燃え続けられないのがわかります。シャボン玉を吹いてみると、こいつはもちろん空気が入っています。これを炭酸ガスのびんに入れてみると、浮かびます。
でもまず、この空気の入った小さな風船を一つ使いましょう。炭酸ガスがどこにあるか、実はよくわかりません。びんをずっと底まで見てやって、どこまで炭酸ガスかを見てやりましょう。ほーら、ごらんのように、風船が炭酸ガスに浮かんでいます。そしてもうちょっと炭酸ガスを作ってやると、この風船はもっと高くなります。こんな具合です。さあ、シャボン玉を吹いてみて、同じように浮かぶかどうか見てやりましょう。 [講師はシャボン玉を吹いて、炭酸ガスのびんに入れてやると、それは真ん中あたりで浮かんで止まった。] 風船が浮かんだのと同じように、こいつも浮かんでいます。炭酸ガスは空気よりも重いからです。そしてこれで炭酸ガス(二酸化炭素)のお話をしてきて、ロウソクの中の出所や、物理的な性質や重さなんかをお話しましたので、次回お目にかかるときにはそれが何でできていて、どこからその元素がきているのかをお見せしましょうね。
註:
- 原注5-1:
- ここで酸素の存在を示す試験のために使われた気体は、二酸化窒素。無色の気体だが、酸素にふれると結合して次亜硝酸になる。これが講師の述べている赤い気体。
- 原注5-2:
- 大理石は炭酸と石灰岩の化合物である。塩酸は炭酸よりも強いので、炭酸にとってかわる。すると炭酸はガスになって外に出てくる。残りは石灰の塩化物、または塩化カルシウムとなって残る。
第 6 章 呼吸はなぜ燃えるロウソクと似ているか。
光栄にもこの講義に顔を出してくださっている女性が、さらにこの二本のロウソクを送ってくれてプレッシャーをかけてくださいます。このロウソクは日本からのもので、おそらくは以前の講義で触れた物質でできているはずです。ごらんのとおり、フランスのロウソクよりずっと手のこんだ装飾がしてあって、たぶんこの様子から判断すると、装飾用のロウソクなんでしょうね。こいつには、非常にかわったところがあります――芯が空洞になってるんですよ――これはアルガンがランプに導入して、実に価値の高いものとなったあのすばらしい特徴と同じですな。ちなみに東洋からこんなプレゼントを受け取る方に申し上げておくと、これとか、これに似た物質はだんだん変化してきて、表面がだんだんどんより濁った外見になってきます。でもきれいな布か、絹のハンカチで表面をこすってやって、表面にこびりついたものというか、かたまったものを磨いてやると、すぐにもとの美しい状態に戻ります。これで美しい色彩が戻ってきます。ロウソクの一本をそうやって磨いてやりました。磨いたのと、磨いていないのとでちがいがわかるでしょう。磨いてないほうも、同じようにすればすぐに戻ります。あと見てほしいのが、この日本からの型どりロウソクは、世界のこの近辺の型どりロウソクよりも、きつい感じの円錐になってるのも見てください。
さて前回お目にかかったときには、炭酸ガス(二酸化炭素)の話をずいぶんしました。石灰水のテストによって、ロウソクやランプのてっぺんからの蒸気をびんに集めて、この石灰水の溶液(その中身はもう説明しましたし、みなさん家でもつくれますね)でテストすると、あの白い不透明なものが出てきて、それは実は貝殻やサンゴや、地中の岩や鉱物の多くと同じ、カルシウムの入った物質なんでしたね。でも、まだロウソクから出てくるような炭酸ガスの科学的な性質を、完全かつはっきりとはお話していませんでした。だからそこに戻らなきゃいけませんね。ロウソクから出てくる産物とその性質は見てきました。水をその要素にまでたどったから、こんどはロウソクから出てくる炭酸ガスの要素がなんなのかを見極めなきゃなりません。これはいくつか実験をすればわかります。
覚えてらっしゃるでしょうか、ロウソクがあまりよく燃えないときには、煙が出てきます。でもよく燃えているときには煙は出てきません。そしてロウソクの明るさはこの煙のおかげで、煙が点火するんだということも知ってますね。これを証明する実験をしましょう。煙がロウソクの炎の中にとどまって、点火している限り、美しい光を放って黒い粒子の形では絶対出てきません。まず、派手に燃える燃料に火をつけますね。こいつがねらい通りです――スポンジにちょっとテレピン油をしみこませてます。煙が上がっているのが見えますね。そして大量に空中に漂い出てます。そしてロウソクから出てくる炭酸ガスは、こういう煙からできてくることを忘れないでください。それをはっきりさせるために、スポンジ上で燃えているテレピン油を、酸素のたっぷり入ったフラスコに入れてみましょう。空気の中でものを燃やす部分です。すると、ほら、煙が全部燃え切ってますね。これが実験の最初の部分です。
さあ、次はどうしましょうか? 空気中では、テレピン油の炎から飛び立っていた炭素は、この酸素の中では完全に燃えています。そしてそれが、このおおざっぱで急ごしらえの実験によって、ロウソクの燃焼とまったく同じ結論と結果を与えてくれることがわかりますよ。なぜ実験をこういう形でやるかと言うと、こういう実証の段階をとても簡単にしておいて、きちんと注意していれば一瞬たりともみなさんが理由付けの筋道を見失わないようにしたいという、ひたすらそれだけです。酸素の中、あるいは空気中で燃えた炭素すべては炭酸ガスになって出てきます。一方、そうやって燃えなかった粒子は、炭酸ガスの中の第二の物質――つまり炭素――を見せてくれます。これは空気がたくさんあるときには炎をとても明るくしてくれる物質ですが、燃える酸素が十分にないときには、余った分が放出されるんですね。
さらに、炭素と酸素が結びついて炭酸ガスをつくるというお話しを、もっときちんと説明しなきゃいけませんね。いまはみなさんもこれをもっとよく理解できるようになっているでしょう。わたしもそれを示すのに、実験を3、4つ用意しました。こっちのびんは酸素でいっぱいです。こっちには炭素。炉に入れて、真っ赤になるまで熱しますよ。びんは乾燥させておいて、多少不十分ではありますが、なんとか結果を見せてあげましょう。そのほうが、実験結果が明るくなるんです。こいつ(ふつうの木炭を赤く燃やしたもの)が炭素だということは、空中での燃え方からもわかります [と、炉からちょっと木炭を取り出す]。これからこいつを酸素の中で燃やしてみます。ちがいを見てください。遠くの人は、これが炎をあげて燃えているように見えるかもしれませんが、そうじゃないです。炭素の小さなかけらがすべて、火花となって燃えているんです。そしてそうやって燃える中で、炭酸ガスを作っているんです。これからやるいくつかの実験は、これからだんだんとはっきりさせていきたい点を、ずばり指摘するものにしたいんです――つまり、炭素がこういう形で燃えるのであって、炎となって燃えるのではないってことです。
炭素の粒子をいっぱい持ってきて燃やすかわりに、炭素のでっかい固まりをもってきましょう。このほうが、形も大きさも見えますし、なにが起きるかもはっきりわかります。これが酸素のびん、そしてこっちは木炭のかけらで、木ぎれをゆわえつけてあります。こいつに火をつけて、燃焼を開始しようってわけです。こうしないと手がかかりますんで。木炭が燃えてますが、炎はあがってません(ちょっとはあがっているかもしれませんが、きわめて小さなものです。これがなぜできるかはわかってまして、炭素の表面近くで、ちょっと一酸化炭素ができるせいなんです)。こうしてごらんのとおり燃え続けますね、そしてこの炭素というか炭(同じことです)と酸素を結合させて、ゆっくり炭酸ガスをつくっていきます。木炭をもう一つ用意します。木の皮の部分の木炭で、こいつは燃えながら飛び散る――爆発する――性質を持っています。熱の働きで、炭素の固まりは飛び散るかけらになります。でもそのかけらのすべてが、この全体の固まりと同じように、この独特の形で燃えます――石炭みたいに燃えて、炎はあがりません。炭素が火花として燃えるということを示すのに、これ以上の実験は知りませんね。
というわけで、ここにその要素からつくった炭酸ガスがあります。一気に作ったもので、石灰水で試してみれば、前に説明したのと同じ物質ができているのがわかりますね。重さで見て 6 の炭素(ロウソクの炎からきても、粉にした木炭からきても同じです)と、重さで 16 の酸素をくっつけると、重さ 22 の炭酸ガスができます。そして前回見たように、重さ 22 の炭酸ガスは重さ 28 の石灰とくっついて、炭酸カルシウムをつくります。カキの殻を調べて構成部分の重さを量ってみると、炭素 6、酸素 16 と石灰 28 が組合わさってカキの殻 50 ができていることになります。でも、ここでそういう細かい話をして困らせたりはしないことにしましょう。ここで扱えるのは、物事のだいたいの考え方だけですからね。さあ、炭素はびんの中でとてもきれいに溶けていってますね [と酸素のびんの中で静かに燃えている木炭のかたまりを指さす]。この炭素は、まわりの空気に溶けていってるんだ、といってもいいかもしれません。そしてこれが完全に純粋な炭なら――すぐにつくれますが――燃えかすなどは一切残りません。炭素のかたまりを完全にきれいにして純化すると、灰は残らないんです。炭素は固体のみっしりした物体として燃えますし、熱だけではその固体ぶりを変えたりできません。でも、ふつうの状況では絶対に固体や液体にならないような蒸気になって消えていくんです。さらにもっとおもしろいのは、酸素に炭素が化合しても、その体積はまったく変わらないということです。最初あったのと同じ体積のままで、単に酸素が炭酸ガスになっただけです。
炭酸ガスの一般的な性質にじゅうぶんなじんでもらうために、もう一つ実験をしておかなければいけません。炭酸ガスは、炭素と酸素でできた化合物です。ですから、炭酸ガスという物質は分離してやることだってできるはずです。できるんです。水と同じように、炭酸ガスも分離できます――つまり二つの構成物質を引き離してやるわけですな。いちばん簡単で手っ取り早いのは、炭酸ガスから酸素を引きつけて炭素だけを残せるような物質を作用させてやることです。カリウムを水や氷に乗っけたら、それが水素から酸素を引き離せたのを見ましたよね。では、この炭酸ガスで同じようなことができないもんでしょうか。
炭酸ガスは、ご承知のようにとても重い気体です。これが炭酸ガスだというのを、石灰水で試すのはやりません。それだと炭酸ガスがなくなって、後々の実験にさしさわりますから。でも、気体の重さと、これで炎が消えるという力で、ここでの狙いには十分でしょう。炎をこの気体にいれてみて、消えるかどうか見てみましょう。ごらんのとおり、火が消えました。この気体なら、ひょっとして燐の火も消せるかもしれません。燐は、ごぞんじのようにかなり強力に燃えます。ここに、高温に熱した燐があります。こいつをこの気体に入れると、火が消えたのがわかりますね。でも空中に戻してやりますと、ひとりでに火がつきます。燃焼が再開されるからです。
ではカリウムのかけらを用意しましょう。この物質は常温でも炭酸ガスと反応するんですけれど、われわれの目的には向いていません。すぐに保護する皮膜で覆われちゃうからです。でも空中での発火点まで温度をあげてやると、というのは当然やっていいことですが、そして燐でのと同じようにしてやると、炭酸ガスの中でも燃えるのが見られますよ。そして燃えるというのは、酸素を奪うことで燃えているわけで、だから後に残ったものが見えます。では、このカリウムを炭酸ガスの中で燃やして、炭酸ガスの中の酸素の存在を証明してあげましょう。 [カリウムを熱する事前処理中に、カリウムが爆発。] ときどきこういう燃やすと爆発したりとかなんとか、そういう変なカリウムに出くわします。別のかけらを使いましょう。さあこうして熱してやって、びんの中に入れると、ほーら、炭酸ガスの中で燃えるのがわかりますね――空中でほどはよく燃えません。炭酸ガスの酸素は他のものと結合した形になっているからです。でも、燃えているのは事実ですし、酸素を奪っているのは確かです。このカリウムを水にいれると、灰汁(酸化カリウム)の他に(これについてはここでは気にしなくていいですよ)、かなりの炭素ができているのがわかります。ここではかなり乱暴に実験してますけれど、もしこの実験を慎重にやって、5分ですませるんじゃなくて丸一日かけたら、スプーンとか、あるいはカリウムを燃やした場所にかなりの炭が残ることになって、結果は疑問の余地がなくなることは断言しておきます。というわけで、ここにあるのが炭酸ガスから得られた炭素です。よくある黒い物質です。これで、炭酸ガスが炭素と酸素からできているという完全な証明ができたことになります。そして一方で、ふつうの状況で炭素が燃えたら、いつでも必ず炭酸ガスができる、ということはお話ししておきましょう。
たとえばこんな木ぎれをとって、石灰水入りのびんに入れたとしましょう。石灰水と木ぎれと空気をいっしょにして、いくら振ってやっても、石灰水は今見ているのと同じように透明なままです。でもそのびんの空気の中で、木ぎれを燃やしてやったとしましょう。そしたらもちろん、水ができるのは知ってますね。では、炭酸ガスはできるでしょうか? [実験が行われる。] ほーらごらんのとおり。つまりここで見えているのは石灰の炭酸化合物で、それは炭酸ガスからできたもので、その炭酸ガスは炭素をもとにできて、その炭素は木や、ロウソクや、その他いろんなものからきてるはずだってことです。実際に、木の中の炭素が見られるとてもきれいな実験を、みなさんも自分でしょっちゅうやってるはずです。木ぎれをとって、ちょっと燃やしてから吹き消すと、炭素が残ります。同じことをしても炭素が見えるように残らない物質もあります。ロウソクだと、炭は見えませんが、でも炭素は含まれています。
こちらにはまた、石炭ガスの入ったびんがあります。こいつは(燃やすと)炭酸ガスをたっぷり作り出します。炭素は見えませんが、じきにそれがあることを示しましょう。火をつけると、シリンダーの中に石炭ガスが残っていれば、燃え続けます。炭素は見えませんが、炎が見えますね。そしてこの炎が明るいということから、炎の中に炭素があることが推測できるわけです。でも、別のやりかたで示してみましょう。同じ気体が別の容器に用意してあります。こいつは、気体の水素は燃やすけれど、炭素は燃やさない物質と混ぜてあるんです。こいつに燃えるロウソクで火をつけます。と、水素は消費されても炭素は燃えないのがわかります。この炭素は、濃い黒い煙になって後に残っていますね。
いまの実験三、四つで、炭素があったら見分けられるようになってくれて、気体やその他の物質が空中で完全に燃えたときにはどんなものができるかを理解してくれると思います。
さて炭素の話題を離れる前に、もうちょっと実験をしてやって、普通の燃焼に関して炭素が持つすばらしい条件についてふれておきましょう。炭素は、燃えるときには固体として燃えるということをお見せしましたが、でも燃えたあとはもう固体じゃなくなるということも、ごらんになりましたね。こんなふうなふるまいをする燃料はほとんどありません。というか、これができるのはあの燃料の大いなる源である、石炭とか木炭とか木など炭素質系の物質(carbonaceous series) だけなんですね。こういう形で燃える元素的な物質は、炭素以外にはわたしは知りません。そしてもし炭素がこういうふうでなければ、わたしたちはどうなっちゃうでしょうか? たとえばすべての燃料が鉄みたいで、燃えると固体ができたら? そうしたらこのかまどでのような燃焼は起こりません。
ここにあるのは、炭素並に、いやむしろ炭素以上に実によく燃える燃料です。よく燃えすぎて、空中にさらしただけで勝手に燃え出します。こんなふうに [と自然発火性鉛(lead pyrophorus)のつまったガラス管を割る]。この物質は鉛です。すばらしく燃えやすいのがわかったでしょう。細かく刻まれていて、暖炉の石炭みたいです。空気がこいつの表面にも中にも入り込めますので、燃えます。でも、こうやって固まりで転がっているときには、なぜさっきみたいに燃えないんでしょうか。単に、空気がたどりつけないからというだけです。すごい熱をつくれるし、その熱をかまどやボイラーの下で使いたいところですが、燃えた結果できる燃えかす部分が、燃えずに下に残っている部分から離れられないんです。だから下にある部分は大気と接触できなくて、だから燃えてしまわないんですね。炭素とはえらいちがいでしょう! 炭素は鉛と同じように燃えますし、かまどや、その他燃やせばどこでも強い火をつくります。でも、燃焼でできた物体は逃げ去って、残った炭素はきれいなままです。炭素が酸素の中で分解されつづけて、灰も残さなかったのはお見せしましたよね。ところが [と鉛の山を指さして] 燃料よりは灰が多いんです。こいつは、結合した酸素の分だけ重くなっています。
というわけで、炭素と鉛や鉄とのちがいがわかるでしょう――鉄を選んでも、この燃料を使った結果として、光も熱も見事に出してくれるんです。もし炭素が燃えたとき、その産物が固体になっていたら、この部屋は不透明な物質でいっぱいになったはずです。鉛の場合みたいにね。でも炭素が燃えると、すべてが大気中にとんでいきます。燃焼前には、固定された、ほとんど変化させようのない状態ですが、燃焼後には気体になって、この気体は固体や液体にするのは実にむずかしいのです(が、やろうと思えばできますけど)。
さてここで、わたしたちの研究対象のとてもおもしろい部分にみなさんをお連れしなければ――ロウソクの燃焼と、わたしたちの体内で起こるような生きている燃焼との間の関係についてです。わたしたち一人残らずの中では、生き物としてロウソクのものにとってもよく似た燃焼プロセスがありまして、それをみなさんにはっきりわかるようにしなきゃいけません。というのも、人の一生とロウソクとの関係というのは、単に詩的な意味でだけ正しいわけじゃなくて、ほかの意味でもなりたちます。だからあとをついてきていただければ、それをはっきりさせられると思いますよ。
この関係をとてもわかりやすくするため、ちょっとした装置を考案しまして、これをすぐにみなさんの前で組み立てていきましょう。こいつは板で、溝が切り込んであります。この溝の上からふたができるようになっていて、するとこの溝は通路になって、それが両端でガラス管につながっていて、全体として自由に通れる通路になってます。さあ、火さし棒かロウソク(もう「ロウソク」ということばをいい加減に使ってもだいじょうぶですね。なにを言いたいのかみんなわかってますから)を用意して、それをガラス管の一つの中に入れます。ごらんの通り、よく燃え続けますね。ごらんのように、炎に供給される空気はガラス管のてっぺんからきて、水平の管(板の溝にふたをした部分)を通って、ロウソクがおかれたもう一つのガラス管をあがっていくわけですね。もし空気が入ってくる穴をふさぐと、燃焼もとまります。見えましたね。
でも、こんなのはどうでしょうか。まえの実験では、ロウソクから別のロウソクに空気を送ってみました。別のロウソクから出てくる空気をとって、いろいろややこしい手を使ってこのパイプに送り込んだら、こっちのロウソクも消えるでしょう。でも、わたしの息をいれても、このロウソクは消えちゃうんですよ。どう思います? 息といっても、ロウソクを吹き消すってことじゃぜんぜんなくて、単に息そのものの性質で、ロウソクはその中では燃えられないってことです。では、穴の上に口をもってきて、炎を吹き消さずに、わたしの口からくるもの以外は管に空気が入らないようにします。結果はごらんの通り。わたし、ロウソクを吹き消したりしてませんね。吐いた息を穴の中に送り込んだだけです。でも結果は、あかりは酸素が足りないと言う理由だけで、消えてしまったわけです。なんかしらのもの――要するにわたしの肺――が空中の酸素をとってしまって、だからロウソクの燃焼に使える分が残っていなかったわけです。わたしが装置のこっちがわに入れた悪い空気が、ロウソクにたどりつくまでの時間を見ておくと、すごくおもしろいと思うんですわ。ロウソクは、最初は燃え続けますけれど、悪い空気がそこについたとたんに消えます。
さてこんどは、別の実験をお見せしましょう。これまたわたしたちの考え方の大事な一部だからです。こっちには、新鮮な空気の入ったびんがあります。ロウソクやガス灯が燃えている様子からもわかりますね。しばらくこいつにふたをして、ガラス管を使ってその上に口を持っていって、そこの空気を吸ってみましょう。こうしてごらんのように水の上においてやると、この空気をこうして吸い上げて(ただしコルクがじゅうぶんにしっかりはまっていればですが)、自分の肺に入れて、またびんにもどしてやることができます。そしたらそれを調べて、どんな結果になったかを見ましょう。見ててくださいよ、まず空気を吸い上げて、それから戻してやります。水があがったり下がったりするからわかりますね。さて、この空気にロウソクを入れてやると、どんな状態になっているかわかります。火が消えちゃいましたね。一呼吸しただけで、この空気は完全に汚れちゃったわけですから、こいつをもう一回呼吸しても無駄なわけです。これでみなさん、貧乏な階級の人たちの家の配置が、適切でないと言われる根拠がわかりますね。そこでは空気が何度も何度も繰り返し呼吸されていて、だからきちんと喚起をして、空気を供給してやらないといい結果にならないんです。一回呼吸するだけで空気がどんなによごれるか見ましたね。だから新鮮な空気がどんなにわたしたちにだいじか、よーくわかるでしょう。
こいつをもうちょっと追求しましょう。石灰水でどうなるか見てやります。ここにちょっと石灰水の入ったフラスコがあります。そしてここについたガラス管の配置で、中の空気にアクセスできるようになっていて、吐いた息や、吐かれていない息の影響を見極められるんです。もちろん、(Aから)息をすいこんでもいいし、そうするとわたしの肺にくる前の空気が石灰水を通ります。あるいは肺からの空気を無理にガラス管 (B) に送り込んで、こいつは底の石灰水を通るから、それがどんな影響を与えるか見てやれるわけです。ごらんのように、外の空気をどんなに長いこと通して、そこから肺に入れてやっても、石灰水には何の影響も出ません――つまり石灰水は濁りません。でも肺から出てきた空気を石灰水に何度か続けて通すと、石灰水は実に真っ白なミルク状になっちゃいましたね。吐いた息がどんな影響を与えたかわかるでしょう。そしてこれで、呼吸によってわたしたちが汚した大気というのは、炭酸ガスのせいで汚れたんだというのがわかります。こうして石灰水にふれたときの様子からそれがわかるんです。
こちらにびんが二つあります。片っぽには石灰水が入っていて、もう片方にはふつうの水が入っています。そして管がそれぞれにびんを通るような形でつながっています。とても雑につくった装置ですけれど、それでも十分に使い物になります。このびんで、こっちで息を吸ってこっちで息を吐くと、管のとりまわしで、空気は逆行しないようになってます。入ってくる空気はわたしの口や肺に行って、出ていくときには石灰水を通るので、こうやって呼吸を続けて、なかなか高度な実験をしてよい結果が得られます。 きれいな空気は、石灰水になんの変化も起こさないのがわかるでしょう。もう一方では、石灰水にはわたしの吐いた息しか通りません。二つのちがいがわかるでしょう。
もうちょい先までいってみましょうか。われわれが日夜を問わず、なしではやっていけない、このいろんな過程というののはどういうものなんでしょうか。万物の作者たる方が、われわれの意志とはまったく関係なく続くように手配してくださった過程です。もし呼吸を止めてみたら、しばらくはできますが、そのまま続けたら死んじゃいます。眠っているときでも、呼吸する器官やそれと関連する部分は相変わらず動き続けます。空気を肺とを接触させるという呼吸のプロセスは、必要不可欠だからです。なるべく手短に、この過程がなんなのかをお話ししなきゃいけませんね。わたしたちは食べ物を消費します。食べ物はわたしたちの中の、いろいろ変な入れ物や機関を通って、身体機構のいろんな部分に運ばれていきます。特に消化をする部分です。そしてさらに、そういうふうにして変化した部分は、ひとそろいの血管で肺を通って運ばれますが、同時にわたしたちが吸ったりはいたりしている空気は別の血管で入れたり出したりされていて、空気と食べ物が近づいて、だんだんとほんの薄い膜だけで仕切られているようになるんですね。この過程で、空気は血液に作用できるようになって、ロウソクの場合に見てきたのとまったく同じ結果を生み出すわけです。ロウソクは空気の一部を結合させて、炭酸ガスをつくり、熱を出します。同じく肺の中でもこのおもしろい、すばらしい変化が起こっているんです。入ってくる空気は炭素と結びついて(炭素が一人で独立した状態にあるわけではないですが、ロウソクの場合と同じように、そのときの反応にふさわしいような状態に置かれています)、炭酸ガスをつくってそれが大気中に投げ出されて、したがってこの特有の結果が起きます。だから食べ物は燃料だと思えばいいですかね。さっきの砂糖のかけらをもってきましょう。これで用が足ります。砂糖というのは、炭素と水素、酸素の化合物で、ロウソクに似ています。同じ元素が入っているという意味ではロウソクに似ていますが、その構成比はちがっていて、砂糖の構成は次の表の通りになります:
炭素 | 72 | |
水素 | 11 | |
酸素 | 88 | (酸素+水素 99) |
これは実におもしろいことでして、みんな頭に入れておくといいでしょう。というのも、酸素と水素はまさに水ができるのと完全に同じ比率で存在しているんですね。だから砂糖というのは、炭素 72 と水が 99 でできていると言ってもいいくらい。そして呼吸の過程で空中の酸素と組合わさるのは、この炭素です――われわれ自身がロウソクみたいなものになるわけですね――そしてそういう反応がおきて、暖かさが生じて、そしてきわめて美しくて単純なプロセスによって、その他いろんな効果が起きて、システムが維持されているわけです。これをもっと印象的にしてみましょう。ちょいと砂糖を用意して、と。いや実験をもっとはやくするために、シロップを使いましょう。これは3/4が砂糖で、それにちょっと水を足したものです。ここに濃硫酸をちょっと入れてやると、こいつが水を奪って、炭素を黒い固まりにして残すんです。 [講師、二つを混ぜ合わせる。] ごらんのとおり、炭素が出てきてますね。そしてまもなく炭の固まりができあがりますよ。すべて砂糖からでてきたものです。砂糖というのは、ご存じのとおり食べ物ですが、そこからこうやってまちがいなく炭素の固まりが出てきてます。まったく予想外です。そして砂糖の中の炭素を酸化するようにすれば、ずっとびっくりする結果が出てきます。はい、砂糖です。そしてこっちには酸化剤です――ただの空気より強力な酸化剤です。そしてこの燃料を、見かけ上は呼吸とちがうやりかたで酸化してみましょう。でも、中身は呼吸とまったく同じなんですよ。体が酸素をこの炭素に供給して、それで炭素が燃えるわけです。こいつをすぐに反応するようにすると、こうして燃えます。わたしの肺で起きているのと同じです――酸素を別のところ、つまり空気中から取り込んでいるわけです。それがここでは、ずっと高速に起きてるんです。
この炭素のおもしろい働きがどれほどのものか、お話ししたら驚きますよ。ロウソク一本で、4時間、5、6、7時間でも燃えるでしょう。すると、一日で炭酸ガスになって空気中に出ていく炭素がどれほどあることか! 呼吸するわたしたちから、どれほど炭素が出ていくことか! これほどの燃焼や呼吸があると、すさまじい炭素が変換されているはずです! 人一人は、24時間で炭素200グラムも炭酸ガスに変換するんです。乳牛は2キロ、馬は2.2キロ。ただの呼吸だけでこれです。つまり馬は24時間で、呼吸器官の中で炭または炭素を2.2キロ燃やして、その期間の自然な体温を保つわけです。温血動物はすべて、このようにして体温を保つんです。炭を変換することでね。その炭も、別に炭のまま独立した状態であるわけじゃなくて、何かと組合わさった状態になってるんですが。そしてここから考えると、大気中で行われている変換は想像を絶するものになります。500万ポンド、あるいは548トンの炭酸ガスが、ロンドンの呼吸だけで毎日生産されているわけです。そしてこれはみんなどこへ行くんでしょうか? 空中にです。もし炭素が、お見せした鉛や、鉄みたいに、燃えたときに固体を残したらどうなるでしょうか。燃焼は続きません。炭素が燃えると、それは気体になって大気に放たれます。その大気はすばらしい乗り物で、炭酸ガスを他のところに運んでいってくれる、すごい運び手なんですね。でもそしたらどうなるんでしょうか。すばらしいことがわかってまして、呼吸で起きた変化は、われわれにはすごく有害ですが(だってわたしたちは、同じ空気を二回以上は呼吸できませんから)、それはまさに地表に生える植物や野菜にとっては、まさに命の源になっているんです。地表以外の同じところでもそうで、水の中でもそうなんです。魚やなんかの動物たちは同じ原理で呼吸しているんですね、ただし大気と接触して呼吸してるわけではないにしても。
ここにもってきたような魚 [と金魚鉢を指さす] は、空気から水にとけた酸素を呼吸します。そして炭酸(二酸化炭素)を作って、それがめぐりめぐって、動物の王国と植物の王国をお互いに依存させるというすばらしい仕事をするわけです。そして地表面に生えるあらゆる植物、たとえばここに見本として持ってきたようなヤツですが、これは炭素を吸収します。この葉っぱは、大気中の炭素を吸い込みます。その炭素は、われわれが炭酸(二酸化炭素)として大気に与えたものです。植物はそうやって育って栄えます。こいつらにわれわれみたいな純粋な空気をあげても、生きていけません。その他の物質といっしょに炭素をあげると、喜んで生きていきます。この木材は炭素をすべて大気からもらってきます。木や植物はすべてそうです。大気は、これまで見てきたように、われわれにとって有害で、同時にかれらにとっては有益なものを運んでくれるわけです。一方にとっての病気は、相手には健康をもたらすものなんです。したがってわたしたちは、単に仲間の動物たちに依存しているというだけでなく、仲間の存在物すべてに依存しているわけでして、自然はすべてお互いにいろんな法則で結びあわされて、その一部が別の部分に貢献するようになっているわけです。
さて、お話を終える前に、もう一点ちょっと言っておかなくてはならないことがあります――こうした操作のすべてに関わる点で、それがわれわれに関わる物体に集約されて関連しているというのは、実におもしろく美しいものです――酸素、水素、炭素が、いろいろちがった形で存在する、ということです。ついさっき、鉛の粉末を燃やしてごらんにいれましたね。あのとき、燃料は空気にさらしただけで、反応しました原注6-1。びんから出してもいないのに――空気がしのびこんだ瞬間、反応が始まりましたよね。さて、あれがすべての反応を司る化学的な親和性の一例です。わたしたちが呼吸すると、同じ働きがわたしたちの中で起きています。ロウソクに火をともすと、別々の部分がそれぞれ引き合っているわけです。ここではそれが、鉛の中で起きています。化学的親和力の見事な例です。もし燃焼の産物が表面から取り除かれたら、鉛は火がついて、そのまま端まで燃えるでしょう。でもここで、炭素と鉛のちがいがあったのを思い出してください――鉛は空気に触れさえすればすぐに反応を起こしますが、炭素は何日も、何週も、何ヶ月も、何年もそのままです。ヘラクレイトスの書いた原稿は、炭素性のインキで書かれていますが、1800 年以上もそのままの状態ですし、大気にはさまざまな状況で触れていたのに、なにも変わっていません。さて炭素と鉛がちがっているのはどういう点なのでしょうか。燃料の目的を果たすような物質は、反応を待つということです。鉛とか、ほかにいろいろお見せできるんですが、そういうものみたいに、勝手に燃え出したりしないんですね。反応するのをじっと待ちます。
こうやって待ってくれるというのは、おもしろいしすばらしいことです。ロウソクは、鉛や鉄(鉄も細かく刻むと、鉛とまったく同じようにふるまいます)みたいにすぐに反応をはじめたりしません。何年も、幾多の時代を経て、なにも変わらずに待ち続けます。こちらには炭素ガスがあります。ジェット管がガスを吹き出してますが、でもほら、勝手に火がついたりはしません――空中に出てくるけれど、燃えるには、十分に熱が加わらないとダメです。十分に熱くしてやれば、火がつきます。火を吹き消したら、その後で出てくるガスは、もう一回火をつけてもらうのを待ちます。
いろんな物質の待ち方もおもしろいですね。あるものは、温度がちょっと上がるまでしか待たないし、あるものは、かなり温度を上げてやるまで待ちます。こちらには、粉火薬と、綿火薬がちょっとありますが、こういうものですら、燃える条件がちがっているんです。粉の火薬は炭素とその他の物質でできていて、とても燃えやすくなっています。そして綿火薬(ニトロセルロース)もまた燃えやすいものです。どっちも待っていますが、反応をはじめる温度や条件はちがっています。熱した針金をあててやって、どっちが先に燃え出すか見てみましょう。綿火薬は爆発しましたが、でも同じ針金のいちばん熱い部分でも、粉火薬は反応しません。物質がこうやって燃えるときの温度差が、実にきれいに示されていますね!
片方では、物質は熱で活性化されるまではずっと待っています。でも別のときには、まるで待ちません。呼吸の場合と同じです。肺の中では、空気は入ってきたとたんに炭素と結合します。人間が凍死寸前の耐えられる最低の温度でも、すぐに反応を起こして、呼吸の炭酸ガスを生じます。おかげでなにもかもうまくおさまって、きちんと続くわけです。これで、呼吸と燃焼のアナロジーはますますきれいで驚異的に見えてくることでしょう。
さて、いままでの講義の終わりにあたって申し上げられることといえば(というのも、遅かれ早かれ終わりはやってくるものなのです)こんな希望を表明することだけです。あなたたちも、自分の世代において、ロウソクに比べられる存在とならんことを。あなたたちが、ロウソクのように、まわりの人々にとっての光明となって輝きますように。そして、あなたたちが行動のすべてにおいて、仲間の人類に対する責務を果たすにあたり、その行いを名誉ある役立つものにすることで、小さなロウソクの美しさに恥じない存在となりますように。
註:
- 原注6-1:
- 自然発火性鉛(Lead pyrophorus)は、乾燥した酒石酸鉛をガラス管(一方の端を閉じて、もう一方は細長く引き延ばしておく)に入れて蒸気が出なくなるまで熱する。そうなったら、管の開口部をバーナーで封印する。その管を割って中身を空中に振り出すと、赤い閃光をあげて燃える。
あとがき
わたしのこと
やあみんな、わたしがマイケル・ファラデーだ。娑婆で話をするのは久しぶりだなあ。わたしは実際にはずいぶん昔の人なんだ。1791年に生まれて、1867 年に死んでる。だからもう 200 年近く前の人ってことになる(この訳が最初に出た時点ではね)。でも、最近は通信技術が発達してきたので、死んでからもこうやってみんなと話ができる。インターネットは本当にすごいものだねえ。だがこういうのがいま可能になっているのも、むかしのわたしのいろんな発見や努力あってのことだ、というのは忘れてもらっちゃ困るな。ときどきはおそなえをして感謝するよーに。
わたしのいろんな発見にもいろいろある。もともと化学屋だったんだ。でも、その中で電気分解とかを見つけるうちにだんだん電気の話に深入りしていって、いまじゃいちばん有名なのは電気方面の話だろう。こう、電線をぐるぐる巻いて輪っかをつくって、棒磁石をつっこむ。それで入れたり出したりしてスコスコすると、コイルに電気が発生するんだ。いまのを読んでヤラシイことを考えた子は、すみにいって立ってなさい! これはそーゆーアダルトな話ではなくて、電磁誘導、という現象の話だ。だからわたしの名前がついた単位もあるぞ。
そしてこれをひっくり返して、電磁石をつくってそれで磁石を動かせることも思いついた。これをもとに、わたしはたぶん世界初の電気モーターをつくった。というか、モーターができることを思いついた。実際にモーターを作って見せたかどうか、いまはもうよく覚えていないけど。でもその考え方は明らかにしたわけね。
そしてそこから、電磁場、という考え方の糸口もつくった。それまでの物理学だと、力ってのは、棒で玉をつつくとか、具体的な物体を通じないと存在しないものだった。空間全体になんか力が、いろんな密度で広がっているという考え方を思いついたのがわたしだ。それがいまみたいに、なんでも場で説明するみたいなことになるとは、まさか思わなかったけれど。
ただ謙遜ではないけれど、わたしは基本は実験おやじだった。もともと鍛冶屋の息子だったんだけれど、あるときデーヴィー卿のやったこういう講演をききにいって感動して、それで助手にしてくれ、ということで弟子入りしたんだけど、デーヴィー卿も実験物理学者だったし、まあ実験よりになるのは当然のなりゆきだった。それにわたしは数学ができなかったのと、やっぱあと実験が好きだったんだよ。ラザフォードくんなんかは、その意味でわたしに近い部分もあるかな(かれは数学もちゃんとできたけど)。
数学ができなくても、大科学者としてやってけたということで、数学嫌いの人はずいぶんわたしを気に入ってくれているみたいだ。科学は数式つつきまわすだけが能じゃない、ひらめきと執念さえあれば、数学なしでもやれるんだ、とね。まあ持ち上げてもらえるのはうれしいし、そういう面が否定できないのはまちがいない。ただ、そこからすぐに「だから数学は無駄だ!」とか極論に走りたがる人が出てくるのは困りものだな。
確かにわたしは場という考え方を思いついた。そしてそれを数学的に表現する力はなかったから、式のかわりに文章でうじゃうじゃ書いていたんだ。さっきちょっと触れた、電磁誘導を考える中で出てきた電磁場という考え方だって、「なんかこういう、磁石から出てくる力みたいなのがあって、それの密度の高いところが……」という感じでわたしは論文を書いて発表していたんだよ。でもそれをたとえばマックスウェルくんがきちんと評価して、厳密な形で数学的に定式化してくれたから、初めてそれが大きな意義を持っていることが理解してもらえた。マックスウェルくんと、かれの数学定式能力がなければ、わたしはいまほど評価はされなかっただろうね。とはいえ逆にわたしがいなければマックスウェルくんのマックスウェル方程式もありえたかどうか。
だから、やはり数学的なところを引き受けてくれる人がいたから、わたしは運良く数学なしでもそれなりの成果を挙げられたと考えるべきだろう。今から思うと、自分ではわけがわからずに、「こんなんできちゃいましたけど」という感じで発表していたような実験もある。もちろんそれは大事なことなんだ。科学をやる一つの流れとしては、まず現象をみて、そこからなんか理屈をつくって、それを数式的にきちんと整理して、というのがある。逆にまず理論をつくって、それを検証するために実験をやって、という流れもあるけれど、ふつうの人が科学に興味を持つのは、まず変な現象をいろいろ見て、というところからじゃないだろうか。でも、やっぱそれを数学的に定式化する、というのが、理論をきちんとつめる上ではどうしても必要だ。数式なしではやっぱりつとまらない。特にわたしの時代から200年もたって、これだけ科学のいろんな分野が厳密になってくると、きちんとしたものをやるには、どうしても数式は必要だよ。わたしの時代だったから、式を使わなくても許された、という部分はある。だから、あまりわたしを引き合いに出して、数式邪悪論をぶってみたりはしないでおくれ。
ただしわたしを見れば、数式がなくても、ある意味で科学の考え方はそこそこわかるようにはなれるかもしれない、というくらいのことは言えるだろう。そしてそれが必ずしも、レベルの低いたとえ話にはならず、やり方しだいでは本質をとらえたものになれる見込みはある、くらいのことも言っていいかもしれない。そして算数ができなくてすべてをことばで説明するというのは、逆に数学ぎらいの人にもわかるように説明できる、ということにもなる。わたしはマックスウェルくんに、いろんな理屈を数式使わないで説明したりできないかなぁ、という相談もしているんだ。そしてもちろん、この講義みたいな形で、わたしはそれを実際にやってみたりもしているわけ。
この本について
というわけで、このロウソクの科学だ。なつかしいなあ。
この本は、The Chemical History of a Candleというのがもとの題名だ。だから「ロウソクの化学的な記述」くらいの訳が正しいのかな(これはちょっと古めの英語だから、「history」は歴史ではないんだ。フランス語を知っている人ならわかるだろうけれど、これはもともと「お話」とか「記述」という意味を持つことばで、ここでもそういう意味で使っている)。でも訳者の話だと、昔っからこの本は「ロウソクの科学」という日本語の題名で訳されていたそうな。そのほうが通りがいいってんだから、まあ別にわたしとしては文句はないな。それにしても、この本が出た頃には、日本なんか本書でも述べられているように、われわれが無理矢理開国させてやった、僻地の変な国だったのに、それがずいぶんと成長したもんだ。
もともとこれは、本として出たわけじゃない。これはわたしが 1847-1848 年と1860–61 年にロンドン王立学院でやった子供向けのクリスマス連続講義だ。47–48 年とかいう書き方をしてあるのは、クリスマスからはじめて 6 回終わる頃には年があけているからだ。それぞれ 60 歳、70 歳近い、ずいぶんジジイになってからやった講演だ。特にこの 1860-61 年のやつは、わたしがロンドン王立学院から引退する直前にやった最後の講義だったので、特に思い出深い。それを、きいていた人が 1861 年に筆記して注までつけて出版してくれたのがこれだ。ちなみに出版の途中でいろんな人がちょっと手を入れたり、端折ったりしてるところがある。たとえば毎回最後に「じゃ今日はここまで、また明日」てなあいさつが入るのを削ったりとか。このバージョンでは訳者の山形くんにおねがいして、いろんなバージョンを参照してできるだけそういうのを戻してもらっている。
ちなみにこのクリスマス連続講義は、わたしが1826年にはじめたもので、わたしのあともチンダルくんとか、いろんなすぐれた科学者が引き継いで、いまでもロンドン王立学院では続いている。テーマもいろいろだ。わたしもこのロウソク以外に、電磁気とか、化学とか、いろいろなテーマでやっている。でもこのロウソクのやつは、われながら気に入っているのだ。ロウソクとかいいつつ、途中の水の電気分解とかになると、もうロウソクからはかなり離れてはいるんだけれど、でもまあなんとかこじつけでもロウソクとの関係は忘れずにいる。かなり広いテーマをカバーできたよね。化学っぽい話と言いつつも電気をいろいろ使ってみたりして、火花を散らしたり爆発させたりして、パフォーマンスとしても結構よかったんじゃないか。
このときネタとしてロウソクを選んだのは、ここには書いていない大きな理由がある。昔は家に電気なんかなくて、みんな灯りにはロウソクやランプを使っていた。だから、だれでもロウソクを持っていたし使っていたわけ。ロウソクを使ったことのない人はいなかったし。
いまの子は、幸か不幸かそうじゃない。ロウソクなんか見たことないって子も多いし、自分でロウソクに火をつけたり吹き消したりしたことのない子も多いだろう。かろうじて、誕生日のケーキくらいでお目にかかった程度だろうか。あるいはSMマニアとか。ロウソクにいろんな種類があるという最初の話も、よくわかんないかもしれない。昔は動物の脂からそのままロウソクをつくっていたけど、いまではそんなものは探したって見あたらない。だからいまの家庭では、わたしが数百年前にやったこの講義は、当時ほどピンとはこないかもしれないね。
いま同じことをやるとしたら、「テレビの科学」でもやるかもしれない。古いテレビを持ってきて、コンデンサーをばらしてみたり、ブラウン管を割ってみたり、コイルを取り出してみたりして、いろんな実験をするかもしれない。オイルコンデンサー(訳注:最近は劣化しやすいのであまり使われないけど)に 100V かけて臭い煙をたくさん出す、というのはこの本の訳者の山形くんに教わって、天国でやってみてずいぶんまわりの不興を買ったっけ。楽しいね(訳注:はた迷惑なので、頼むから人のいないところでやってね)。ちなみにかれはガキの頃、捨ててあるテレビを拾ってきて、いじってるうちにブラウン管が割れて手を切ってしまい、たーいへんだったんだそうだ。ついでに、こいつがゴキブリのたまごを初めて見たのも、そのテレビのなかでだったけれど、それはまた別の話だ。そのゴキブリのたまごがかえったときにはもうホーントに大変なことになって……いやいや、よそうね。ただまあ、そうやってテレビ(特に古いヤツ)を使うと、生物学まで含めたいろいろな実験ができただろう。
ただ、だからといってこれがいまや古くさい、歴史的な意義しかない講演録だとは思わないでほしい。この本のいちばん最初のところでわたしが言っていることをちょっとみてほしいな。ロウソクなんていうつまらないものを選んだ、ということについて話をしているだろう。この当時すでに、ロウソクってのは別にファッショナブルでもなんでもなかった。科学の話をするんなら、もっと最先端っぽいものはたくさんあった。でも、わたしはあえて、古くさい、どこにでもある、つまらないロウソクを選んでいるわけ。逆にそれが古くさいからこそ、今もそんなに古びずにすんでいるんじゃないかな、とも思う。これが「これぞ現代科学の最先端!」とかいうのを紹介するような代物だったら、たぶん今日では見る影もなかったんじゃないかな。
そしてそのつまらないロウソクから出発して、まあ当時はかなりはやりっぽかった電池なんかもバチバチ使って、見てるほうとしても結構おもしろがってくれたはずなんだ。まあ当時は娯楽があんまりなかった。だからわたしの実験なんかでも、うけはとれたのかもしれないけどね。それに、ロウソクを発端にして、かなり手を広げて燃焼から電気分解から空気圧から、最後は呼吸でちょっと生物学っぽい話までして、かなり話を広げているでしょう。われながら、なかなか大風呂敷を広げたな、という感じではあるけれど、科学の大枠みたいなこととか、分野としての広がりみたいな話、そしてその中のいろんなものの関連性と、それらすべてに共通する科学的な方法論の片鱗みたいなことはなんとなく感じ取ってもらえたんじゃないかな。
あと、やっぱみんながあとから同じ実験を再現できる、というのが重要。まああんまり塩酸や硫酸を使った実験を家でやるわけにもいかないだろうけれど、それでもできることはたくさんある。なるべく講義の中でも、自分で家に帰って実験してみてくれるように言っているけれど、どのくらいの子が実際にやってくれたかな。でも、ロウソクをタネにしたことで、それはかなりやりやすくはなっているはずだ、と思うのだ。
ここでの実験は一般の観客向けにおもしろくするのを重視しているから、必ずしも厳密な実験とは言えないものもある。水素と酸素のシャボン玉をつくって、火をつけて爆発させるのは、両者が空気なしで反応して水ができたという実験として十分かな? 批判をするならどこだろうか。もっときちんとやるためには、どういうふうにしたらいいだろうか。そういうことを考えながら読んでみてほしい。あるいは説明なんかでも、勢いで流してるけど、実はあまりいい説明とはいえない部分もある。山形くんもちょっとコメントしたりしてるけど。そういうのを見つけようとしておくれ。どこがおかしいか、もっとうまくやるにはどういう説明をするのがいいかも考えてね。あとできれば実際にここにあげてあるような実験を自分でできるといいね。そして自分で考えたことをもとに、自分なりの実験をやって見られるといいな。学校の理科や物理・化学の先生に相談してみると、なんとかなるかもしれない。
この講演に対する批判、というのはあんまりきかないけれど、うーん、かろうじてあるとすれば、最近この天国にファインマン君がやってきて、かれがちょっと文句をつけているところがある。かれはなかなかおもしろいやつで、天国にきてまで下ネタを連発していて楽しいんだけれど、かれは『科学は不確かだ』(岩波書店)の中におさめられた講演で、この『ロウソクの科学』の一部に文句をつけている。各種の物質(たとえば炭酸ガス)がどういうやりかたで作っても同じだ、という話について、わたしはそれが産業的に有意義だ、という話につなげる。でもファインマンくんはそれが宇宙的に共通した原理を示していることに感銘していて、それをわたしが単なる産業にとっての意義にひきつけて話をしていることに(まあ冗談半分ながら)不満を述べている。うははは。まあそうだねぇ。ただ、当時はそろそろ産業革命が始まろうって頃で、産業に対する期待がものすごかったんだ(いまのインターネットなんかの比じゃないよ)、ということは理解してほしい。あと、やはり説明として身近なものにどう関係しているかを考えるのは、とっても大事なことだと思う。その意味で、わたしはファインマンくんの揚げ足取りは不当だと思うな。そういう宇宙的原理のほうが、産業でのモノの作り方よりえらいと思うのは、科学者の思い上がりだとは思う。
さてここでわたしは「原子」とか「分子」というのをはっきり持ち出してはいない。もちろんそういう概念は知っていたし、ふつうの科学者は原子とか分子が実在すると思っていたんだけれど、「見たことあんの?」といわれると困っちゃうし、ホントにそんな原子とか分子とかいうツブツブがあることをみんなに簡単に見せるのはむずかしかったからだ。わたしはここで、とりあえず見てすぐわかる実験がしたかった。そしてそこから何が言えるかを導きたかった。「実は原子というモノがありまして」という話になっちゃうと、手軽な実験で導けることを超えた話になってしまうんだ。その意味で江沢洋くんが「だれが原子を見たか」(岩波書店)でいろんな実験をやって、納得いく形で原子があるんだ、ということを見せようとしているのはおもしろいし、勇ましいなぁ。かれはたぶん、わたしのこの『ろうそくの科学』を継いでくれていると言ってもいいかもしれない。
一方で、最近はやりの変なパラダイムとかいうヨタばなしはなんとかならないものか。わたしがやっていたような科学というのは、社会的に構築された妄想だとかなんとか。わたしはここに挙げたような、いろんな検証手続きをやって、自分の考えを証明しようと努力した。その一部には、社会的な状況の影響というのはあるだろう。でも、だからといってわたしが検証したことがまちがっているとか、無根拠だということにはならない。わたしはこれを英語でやった。山形くんはそれを日本語という形式に置き換えている。社会的な構築がもたらす影響はそういうところには差が出る。でもそれ以上のものじゃない。別の考え方やとらえ方があるなら、そりゃ結構だ。だったらその別の見方を明確に示すことこそが本当に重要だろう。そしたら比べてあれこれ言えるじゃないか。天国から見る限り、多くの人は単に、別の見方があるかもしれないというだけで何か言えたような気になってる。でも、そんなことに意味はないんじゃないかな、とわたしは思うのだ。
が、話題がそれた。こういう実験やその楽しさを教える機会というのが、たくさんあちこちにあるとよいな、とわたしは思う。そしてそれを実現するにあたって、ここに記録したわたしの実験がちょっと参考になれば、とも思うのだ。これをそのままやるもよし、または現代的なものと組み合わせて新しい実験をやるもよし。そうした工夫が今後どんどんでてきてくれると、わたしも天国でとても嬉しいのであるよ。では。
訳者コメント
えー、著者さんがいろいろ説明してくれたので、ぼくもう言うことないっす。訳はなるべく、講演調を尊重しました。あと、ここにある実験を追試してみようと思ったら、火の扱いには十分に気をつけてね。
翻訳にあたっての原文は、インターネット上に出回っているやつを使ったけれど、著者も言うとおりどれも脱落部分とかが結構あったので、出版されたものを参照して適当に補っている。あと、一部の実験は、図でどんなものか見せないとわけわかんないので、それも適当におぎなっている。では、Enjoy!